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第4話 狐の災難4

「真那斗、いつまで辛気臭い顔してんの。せっかくの誕生パーティーにカビが生える」 「うるさい……」 夏目さんのバースデーパーティーは盛大だった。きつね食堂本店の席は全て埋まり、飲めや歌えやの大騒ぎだ。普段隠れて生きている分、反動で盛り上がるのは仕方ないだろう。 楽しそうな団体から距離を置いて、俺は座敷の隅で座っていた。週末は仕事の失敗で落ち込むことが多い。今週も小さなミスを積み重ねてしまい、木ノ下さんに迷惑を掛けてしまった。 幼なじみの桃矢が側にやってきて、俺の腕を覗き込んだ。 「いい時計してんじゃん。見せて」 「触るなよ」 「もしかして、その時計も“木ノ下さん”と同じなのか?」 「違う。同じのじゃない……」 正確には、同じものは高くて買えなかった。似たような類似品である。 「真那斗はそんなに木ノ下さんがいいんだ。少しばかり格好が良いからって、真似するのはおかしい」 「なんだよ。おかしくないって」 「いいや、おかしい。無理して人間の会社に勤めるから、しなくていい苦労をするんだ。どんなに頑張っても遺伝子レベルで木ノ下さんにはなれない」 分かり切ったことをズバリと言われる。さらに桃矢は俺の横へピタリと身体をつけ、小声で囁いてきた。 「会社なんか辞めて俺と店やろうよ。いつか話したカフェとか、なんなら食堂の6号店でもいい。今より絶対楽しいと思う。俺は真那斗が泣く姿を見たくないんだ。どうしようもなく悲しくなるから」 桃矢が、項垂れる俺の頭を撫でた。小さい頃から知っている手は、いつの間にか俺より大きくなっていた。 10代前半で成長を止めた俺とは違い、桃矢は大きい。チビを争っていた身長も、小学生のうちに俺を追い越した。今ではパーマもかけちゃって、チャラく見えてしょうがない。 誕生日も近く、親同士も仲が良い。兄弟同然で過ごした俺達は、その辺にいる親戚より絆は深いだろう。 その桃矢が言っているのだから、俺の限界は近いようだ。でも、木ノ下さんと仕事ができないのはもっと嫌だった。 「もう少しがんばりたいんだ。狐だから人間に敵わないって思いたくない」 「全く……頑固だな。ほら、こっちおいで。いつものやってやるよ」 「……みんな見てる」 「誰も隅っこなんか見ていない」 店内は、夏目さんの歌声が響いていた。昔から伝わる民謡を悠々に歌い上げている。聞き惚れる人達は、全く誰もこちらを気にしていない。 俺は、桃矢の広げた腕へ近付いた。手を伸ばし、桃矢に優しく包んでもらう。懐かしい匂いは木ノ下さんのものと違い、俺を安心させてくれる。 「頑張り過ぎなんだよ。俺はこうやって応援してあげることしかできない」 「うん……」 幼い頃から、俺の元気が無い時、いつもこうやって桃矢に抱きしめてもらっていた。桃矢が充電してくれれば、嫌なことにも立ち向かうことができた。 ぎゅっと、桃矢の温かさに身を任せた。

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