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第21話狐にしか分からない11
行為後は、人間、狐にかかわらず、冷静になる時間がある。それは他に漏れず、狐にもやってきた。
散々弄りまわされた狐は、萎むように人間に戻ってしまった。木ノ下さんの前では、もはやコントロール不能である。
何となく自らを魔法が溶けたシンデレラのようだなと思った。シンデレラに変態王子様がいるという物語は聞いたことがないが、きっとそれに近かったに違いない。
「狛崎、元に戻ったのか。いや、人間が仮なのか……?」
木ノ下さんは、スッキリした表情で俺を見た。突き抜けた爽やかな感じが憎くもあるが、元気になってもらえたことは素直に喜びたい。
俺で『癒された』のなら何よりだ。
「気持ち悪くないですか」
「何が?」
「昔、狐人間は普通に暮らしてたんです。その見た目故、人間から迫害を受け隠居するようになりました」
老狐たちの恨みは相当根深く、今だに人間を毛嫌いしている。保守的な考えを持った人からは、俺の就職さえ否定される。
「歴史はよく分からないが、可愛いくて癒される存在だと思う。途中から見境いが無くなってしまったことは謝る」
「…………本当ですよ。お願いだから、他の人間には他言しないでください。尻尾ぐらいならいつでも触らせてあげますから。内緒にしてください。お願いします」
すると、木ノ下さんはいつもの真面目な表情になった。俺の憧れである、仕事モードの木ノ下さんだ。ここで使わなくてもいいくらいの男前だ。
「分かってるよ。約束する。狐の狛崎は俺が守る。狛崎さえよければ、付き合うという手段もある」
「え…………」
「お前だって、上司にセクハラされているより、きちんとした恋人としてなら、触られ易いだろう。気持ちの問題だ。それに、近くにいたほうがカバーできる」
真意がよく分からない。だが、秘密を守ってくれるなら、その言葉に甘えたい。
狐の正体がバレてしまった以上、いつ他に漏れる分からないのだ。こうなったら狐一族を俺が守るしかない。
自分のミスは、自分で回収しなければ。
「え……えと……木ノ下さんは、男が好きなんですか?それとも動物が……?」
「どっちも趣味じゃない。狛崎だけ俺に響いたんだよ。で、どうすんの?1人で怯えながら狐人間を守るのは大変だろう」
「……………では、お願いします…………」
『決まりだな』と木ノ下さんはにっこりと笑い、俺へキスをした。むにっと柔らかいものが触れる。
(木ノ下さんの唇、ものすごく柔らかい……)
「な、なにをするんですかっ!!!」
「恥ずかしがることは何も無い。『恋人』なら当然だろ」
「次から、やる時は言ってください。狐になったら大変ですから」
「俺の前ではいつでも狐になって構わないよ。まずは、驚いても狐にならないように訓練だな」
「い、いいです……キ、スはまた次で……」
こうして、ひた隠しにしていた狐は、呆気なく木ノ下さんにバレてしまい、訳が分からないままお付き合いを始めることになった。
人生なるようにしかならない……そう思うことにした。
【END】
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