21 / 21

第21話狐にしか分からない11

行為後は、人間、狐にかかわらず、冷静になる時間がある。それは他に漏れず、狐にもやってきた。 散々弄りまわされた狐は、萎むように人間に戻ってしまった。木ノ下さんの前では、もはやコントロール不能である。 何となく自らを魔法が溶けたシンデレラのようだなと思った。シンデレラに変態王子様がいるという物語は聞いたことがないが、きっとそれに近かったに違いない。 「狛崎、元に戻ったのか。いや、人間が仮なのか……?」 木ノ下さんは、スッキリした表情で俺を見た。突き抜けた爽やかな感じが憎くもあるが、元気になってもらえたことは素直に喜びたい。 俺で『癒された』のなら何よりだ。 「気持ち悪くないですか」 「何が?」 「昔、狐人間は普通に暮らしてたんです。その見た目故、人間から迫害を受け隠居するようになりました」 老狐たちの恨みは相当根深く、今だに人間を毛嫌いしている。保守的な考えを持った人からは、俺の就職さえ否定される。 「歴史はよく分からないが、可愛いくて癒される存在だと思う。途中から見境いが無くなってしまったことは謝る」 「…………本当ですよ。お願いだから、他の人間には他言しないでください。尻尾ぐらいならいつでも触らせてあげますから。内緒にしてください。お願いします」 すると、木ノ下さんはいつもの真面目な表情になった。俺の憧れである、仕事モードの木ノ下さんだ。ここで使わなくてもいいくらいの男前だ。 「分かってるよ。約束する。狐の狛崎は俺が守る。狛崎さえよければ、付き合うという手段もある」 「え…………」 「お前だって、上司にセクハラされているより、きちんとした恋人としてなら、触られ易いだろう。気持ちの問題だ。それに、近くにいたほうがカバーできる」 真意がよく分からない。だが、秘密を守ってくれるなら、その言葉に甘えたい。 狐の正体がバレてしまった以上、いつ他に漏れる分からないのだ。こうなったら狐一族を俺が守るしかない。 自分のミスは、自分で回収しなければ。 「え……えと……木ノ下さんは、男が好きなんですか?それとも動物が……?」 「どっちも趣味じゃない。狛崎だけ俺に響いたんだよ。で、どうすんの?1人で怯えながら狐人間を守るのは大変だろう」 「……………では、お願いします…………」 『決まりだな』と木ノ下さんはにっこりと笑い、俺へキスをした。むにっと柔らかいものが触れる。 (木ノ下さんの唇、ものすごく柔らかい……) 「な、なにをするんですかっ!!!」 「恥ずかしがることは何も無い。『恋人』なら当然だろ」 「次から、やる時は言ってください。狐になったら大変ですから」 「俺の前ではいつでも狐になって構わないよ。まずは、驚いても狐にならないように訓練だな」 「い、いいです……キ、スはまた次で……」 こうして、ひた隠しにしていた狐は、呆気なく木ノ下さんにバレてしまい、訳が分からないままお付き合いを始めることになった。 人生なるようにしかならない……そう思うことにした。 【END】

ともだちにシェアしよう!