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1-再会

薄闇の中で白い喉が反り返った。 白濁の雫が優艶な形をした手の内側に注ぎ込まれる。 切れ長な瞳は切なげに潤んで長い睫毛を微かに濡らし、薄赤い唇が扇情的なほどの艶を帯びた。 「……はぁ……」 狭霧洵(さぎりじゅん)は自らの欲望を受け止めた手もそのままに、しばらく荒い息遣いを繰り返した。 シャワーを浴びて完全に乾ききっていない薄茶色の髪がこめかみへと流れて枕に押しつけられる。 狭霧は気怠そうにため息をこぼし、数枚のティッシュで自らの粗相を拭い取った。 自分の手で達するばかりの日々。 回想に縋ってばかりの情けない日々。 狭霧はふと自嘲的な笑みを浮かべた。 結局、俺はあの頃の感触を何一つ忘れられない……。 「……」 ベッドに仰臥していた狭霧はおもむろに起き上がった。 キッチンへと連なるドアを凝視し、聞こえるはずのない音色にまどろんでいた意識を無理矢理覚醒させられた。 チャイムが鳴っている。 現在時刻は零時過ぎ、人付き合いに消極的な大学生の狭霧が一人暮らしをするようになって初めて訪れる事態だった。 悪戯か間違いかと思い、ベッドの上でチャイムが鳴り止むのを待ってみた。 だが、やまない。 チャイムは一定のリズムでもって鳴り続いた。 狭霧は乱れていた寝具を正してフロアを進み、磨りガラスのはめ込まれたドアを開けた。 十月中旬の真夜中の冷気に満ちたキッチン。 その向こうに玄関ドアがある。 正体不明の来訪者は急ぐ気配も出さずに間をおいてチャイムの音を途絶えさせるまいとしていた。 ドアへと歩み寄って覗き穴から来訪者を確認した狭霧は眉根を寄せる。 ミリタリージャケットのフードを目深にかぶった黒ずくめの男が立っていた。 吹き曝しの通路を照らす朧な明かりを背中に浴び、嫌でも不審な印象を受ける。 狭霧はドアのロックを外そうとはせず、用件を尋ねることもなく、無言で様子を見ようとした。 「俺だよ」 男は開口した。 「忘れたのか?」 フードの下に鋭い三重の双眸が現れる。 「何年振りだろうな、狭霧」 喉奥で奏でられた低い笑い声に途方もない眩暈を覚え、狭霧は、よろけるようにドアへともたれた。 「(かえで)

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