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7-3-最終話
「ッ……楓……」
伸びてきた片手がシャツを捲り上げて上気した瑞々しい肌を明かりの元に曝す。
勃起した胸の突起を爪弾かれ、狭霧は皮膚を戦慄かせて酸素を余計に吸いこんだ。
達したばかりのはずの楓のものが狭霧の中で瞬く間に回復し、間を置いて奥を甘く突いてくる。
もう片方の手は狭霧の濡れ渡った性器の先端をたっぷり甘やかした。
「あ、っ……ん……はぁ……っ」
狭霧の白い喉が反り返った。
上体を倒した楓は上を向いた狭霧の頤に歯を食い込ませ、自分の左手と彼のペニスを新たな白濁で潤して言った。
「感じるか、狭霧」
温んだ粘液は花の蜜じみた滑りを帯びてそこから溢れた。
楓はまた狭霧に濃密なキスをして、全身に満ちた火照りを腕の中に感じ取ると、緩やかだった腰の速度を徐々に上げていった。
「楓、楓……」
狭霧は楓にしがみついて何度も呼号した。
濡れそぼっていく尻丘に浅く深く突き入れられる度、褐色の肩に爪を食い込ませて皮膚を裂く。
包帯を血で湿らせて今にも虚脱しそうな眩暈に罪深く溺れた。
「……狭霧、いいか……?」
そう囁きながら楓は狭霧に延々と口づけた。
どうしたって自分の一つにできないもどかしさが彼をそうさせた。
繋がることのできる場所があるのなら何一つ残さずに繋げてしまいたかった。
夜明け前の、蒼茫たる空気に浸された世界がカーテンの向こうに広がる中、ベッドで横になって向かい合う楓に狭霧は微笑みかける。
「好きだよ、楓」
正午前の穏やかな日差しが青々と生い茂る街路樹に惜しみなく降り注いでいる。
空いた車道ではどの車も快適な走りを見せ、陽光を反射したボンネットが眩しく光り輝いていた。
足早に歩道を行く厚手のダウンジャケットを羽織った楓は、ポケットに深々と片手を突っ込んで先を急ぐ。
もう片方の手には不似合いなスーパーのレジ袋が握られていて、中の品物がぶつかり合い、ひっきりなしに音を立てていた。
楓は角のタバコ屋を曲がって雑然とした裏通りを前進し、コンクリートが打ちっぱなしの四階建てマンションに到着すると、一階の部屋の鍵を開けた。
見るからに家具の乏しいメゾネットタイプの部屋。
先日購入したばかりのカーテンが半分開かれて、フローリングに日だまりをつくっている。
一段と温もった日向の中には毛布に包まって眠りにつく狭霧の姿があった。
狭霧に再会する何日か前に楓はこの部屋へと越してきた。
狭霧が住むアパートへバス一本で行くことのできる街だった。
とりあえず買ってきたものを中二階に続く階段脇に下ろした楓は、昨晩から脱ぎ捨てられたままになっている狭霧の服を跨ぎ、彼のそばに腰を下ろした。
窓辺に投げ出された傷跡の残る掌に、そっと自分の掌を重ねてみる。
すると彼は裸の肩を震わせて微かな吐息を洩らすと、端整な寝顔を楓の方へ向けた。
狭霧と一緒にいるとき、楓は絶えず彼のどこかに触れていたかった。
髪、腕、背中、彼のものならどこだってよかった。
その体をこの手で絶えず実感していたかった。
「狭霧」
楓の呟きに、ふと狭霧が目を開いた。
楓は少し笑う。
覚束ない視線を見つめ返していたら、狭霧は瞼を再び閉ざし、夢の続きへと帰っていった。
楓は掌で繋がる温もりを噛み締め、窓に背中をもたれさせて自分も目を瞑った。
欲望の鎖に甘んじて、深く囚われていく痛みを、その身に新たに感じながら。
end
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