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「んっ……笹倉さ……っはぁ……ッ」
「あ……そこ……もっと……」
「ッ……ここ? ここですか……?」
ベッドで仰向けになった笹倉に覆い被さる牧村は先ほどまでの消極的な態度が嘘であったかのように。
笹倉が刺激を求めていると思われる場所に頻りにペニスを擦りつけた。
自身の白濁が絡み、生温く濡れ渡った仮膣の奥まったところをがむしゃらに攻め立てた。
「あ」
牧村の目の前で笹倉は喉を反らした。
眼鏡レンズの下で涼しげに長い睫毛を痙攣させ、切なげに眉根を寄せ、貴い恍惚感に身悶える。
ピストンまで止めて凝視している牧村に気付くと目許に媚態を翳して笑いかけてきた。
「キスする……?」
心臓を改めて高鳴らせ、ずっと続いている下肢の疼きに目尻を歪ませ、牧村は笹倉にキスした。
溢れ出る唾液もそのままに水音をはしたなく鳴らして端整な唇に溺れた。
甘く感じられる口内の微熱を掻き回し、食み、舐め上げ、濃厚なキスに夢中になった。
「キスしながら、動いてみて……?」
笹倉のオーダーに牧村は忠実に従った。
深々と唇を交えながら腰を揺らめかせ、後孔奥をひたすら突き上げた。
「んっ……む……っ……っ……」
ベッドの上でどんどんきれいになっていく笹倉に見惚れた。
身も心もこの人に捧げたいとすら思った。
「笹倉さん、おれ……っ」
勢いに任せて止められない想いを告げようとした牧村の唇に笹倉の人差し指が「待った」をかけた。
「今はコッチに集中して……?」
もう片方の手が先走りに塗れて卑猥に艶めくペニスへ牧村の利き手を誘う。
「っ……いっぱい濡れてる……」
「うん……君とのセックスでこんなに濡れた……はしたないね、僕のペニス……」
「……笹倉さんは……きれいです……」
快楽に浮かれた眼差しも、腕の傷跡も、濡れそぼったペニスも、何もかも。
「……じゃあ、もっと、きれいにして……」
自分以外で初めて触れる男の性器に躊躇なく五指を絡める。
「ッ」
「あ……っごめんなさい、強過ぎました……」
「牧村君、優しくして……?」
牧村はゴクリと喉を鳴らした。
ゆっくり、丁寧に、緩やかに、彼のペニスを愛撫する。
「突いて……」
愛撫しながら、仮膣奥を突き、次の絶頂を前にして頂きを力強く膨らませた。
「キスも……」
すでに開かれていた唇を斜めから欲深く塞いだ。
「おれ……っ……また……っもぉ……っ」
「うん、一緒に……ね? 牧村君……?」
「あ……はいっ……笹倉さんっ……ッ……!」
「はぁ……ッ……さっきの、続き……」
「ッ……ッ……え……?」
「台詞の続き……後で聞かせてね……?」
「ッ……好きです……!!」
「ッ……今、言っちゃうなんて……あ……」
「笹倉さん……ッ……ッ……ッ……!!」
「あ、狭霧……」
「牧村」
昼休みに学生ホールで狭霧の姿を見かけ、大学にやってきたばかりの牧村は駆け寄った。
「朝一の講義、出た?」
「あ、いや……今来たばっかりで」
「そうなの? 俺も」
「え? あ、そうか」
「傷はどう? その包帯は……楓さん?」
「あ……うん……あの後、笹倉さんは……?」
「あっ」
「え?」
「えーと、うん、大丈夫だった、うん」
「牧村、お前」
「えっっ?」
狭霧に繁々と見上げられて牧村はどきっとした、一晩中及んだセックスの名残はシャワーで洗い落としたつもりだったが、何か痕跡でも残していただろうかと、たじろいだ。
「猫背がなおってる」
予想外の狭霧の言葉に牧村は呆気にとられ、何となく学生で混み合う周囲を見渡し、そういえば景色が違って見えるかなぁ、なんて思ったりした。
自分の心に長らく巣食っていた「悪い夢」がやっと解れ、崩れ落ちて、精神的な視界がクリアになった彼は照れたように笑う。
「笹倉さんのおかげかな」
狭霧は素直に首を傾げるのだった。
笹倉さんはまだナイフを持っている。
俺が預かろうかと申し出たら、他人を傷つけた自分への戒めとして、廃棄せず、手元に置いておく、そんな答えが返ってきた。
かつて傷つけられた彼の心を守る防御壁でもあったナイフ。
「俺が代わりに笹倉さんの心の拠り所になりたいです」
彼とまた会う約束をした。
君といると汚れていた心が本当にきれいになっていくみたいだよ、牧村君。
end
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