8 / 14

枝分・5

翌早朝、僕は布団から出られなかった。 身体の奥から湧き上がる熱は全身を彷徨(さまよ)って結局出口を見失い、また全身を彷徨っていく。放浪に疲れた熱は下半身に(たむろ)して、解放をただひたすら待っている。 発情期だ。 僕はすぐに気がついた。 気が付いたけれどどうしていいかわからず、布団の中で蹲っている。誰かに助けを求めようにも、こんなはしたない姿誰にも見られたくない。 だけどそろそろ涼ちゃんが朝食を持ってくるだろう。僕は困り果てた。涼ちゃんにこそこんな姿見られたくない。それに、涼ちゃんに会ったら我慢できるかどうかわからない。 涼ちゃんに抱かれたい。 小さい時から少しずつ少しずつ育っていた想い。いつしか自分と彼の立場の違いを理解して封印した想いが今こんな形で爆発してしまうのは避けたかった。 来ないで、どうか来ないで。 そんな無理な願いが叶うはずもなく、控えめなノック音の後に紅茶とトーストの香りを携えて涼ちゃんが入ってきた。 「大樹様、朝食を…?」 紅茶とトーストの香りをかき消す、甘ったるい匂い。それは紛れもなく僕のフェロモン。 涼ちゃんはβなのに、βがそこにいたってフェロモンが突然増大するわけないのに、僕のフェロモンは涼ちゃんの存在を認識した途端に膨れ上がる。 好き。大好き。 涼ちゃんが欲しい。 「涼ちゃ…」 溢れたのは一筋の涙と堪えきれなかった想い。 抱いて、という消え入りそうな言葉に、涼ちゃんは目を見開いた。

ともだちにシェアしよう!