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桃色チューリップ

それから、どの会社説明会でも来栖と再会することなくこのY商社に内定が決まり、晴れて自由の身となった俺は残り少ない脳内お花畑の大学生を謳歌して社畜、もとい新社会人として一歩を踏み出したのである。 そのスタートラインで、来栖とまさかの再会を果たすとは。 「来栖!ちょっ、俺の話聞いて!!」 「嫌だ!!辞表出してやる!!」 「まだ辞表じゃなくて退職届だ!!って違うそうじゃない!!来栖ー!!」 人波をかき分けていつのまにか辿り着いた喫煙所には、誰もいない。寂れた古い灰皿がひとつポツンと佇んでいる。その先は誰が世話しているのか色とりどりのチューリップが花開いていて、どう見ても行き止まりだった。 チューリップの花壇を前に立ち止まった背中に、俺はどうかこの想いが届きますようにと願って声を上げた。 「もう付き合ってくれとか言わないから!俺と友達になってくれ!一緒に飲みに行ったり飯食いに行ったり、休日に遊びに行ったり…!頼む!!」 同期の一人として、連絡先に加えてもらえたら。友達として認識してもらえたら。疲れている時に飲みに呼び出せるような、ちょっと寄りかかれるような相手になりたい。 付き合ってくれなんてもう思わない…とは言えないが、少なくとも来栖本人には言わないから、どうか。 好きでいることくらいは許して欲しい。 たっぷり3秒は間があったと思う。もしかしたらもっとかも。少なくとも俺は3分に感じた間を置いて、来栖はちょっとだけ振り返った。 頬をピンク色に、目元を赤色に染めて。 来栖本人が、チューリップみたいになって。 「…ばかやろー。」 そんな顔されたら、期待しちゃうじゃないか。 社会人1日目、少なくともプライベートの滑り出しは上々である。

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