2 / 3
紫色チューリップ
遡ること半年前。
絶賛就職活動中だった俺は運命の出会いを果たす。それがこのY商社の会社説明会だ。
学生時代に特筆すべき功績もなく、ずっと続けた水泳も別に優秀だったわけではなく、おまけに口下手で自己PRも苦手、面接なんて大嫌い。甘ったれな末っ子気質まっしぐらの俺は既に何社も落ちていて、半ば自棄になりはじめた頃だった。
説明会で適当に座ったあのパイプ椅子。ケツが痛くなるんだよなと思いながらスマホをいじって時間を潰していた俺の右隣に座ったのが来栖だった。
可愛くて可愛くて天使みたいでとにかく可愛くて、文字通りの一目惚れを果たした俺は説明会どころではなくドキドキしっぱなし。これは彼女いない歴3年になろうとしている俺の頑張りどき、と説明会終わりに名前を聞き出した。
「来栖 俊雄 です。」
ちょっといやかなり男前な名前だな、と思ったのだ。声も低いしスカートスーツの女の子が多い中でパンツスーツ、いやこれって寧ろ男物のスーツ。
はて。
「…男?」
その時の来栖の表情の変化といったら夢に出てきそうだった。
にっこりと青筋を立てながら微笑んだ来栖は一層低い声で「男ですよ。」と告げ、呆然とする俺の足を踏んづけて去っていった。
それから2週間経って、なんと俺と来栖は別の会社の説明会で再会する。
この時もやっぱり来栖はすごく可愛くて胸がドキドキして、これはもう男とか女とか関係ないと気付いた。そう、恋に落ちてしまったのだと。
そう気付いた俺は足早に来栖の元へ向かうと、ガバッと90度に体を折り曲げ力一杯腹の底から謝った。
「ごめん!!!」
会場中に響き渡るんじゃないかというほどの大声に、しんとあたりが静まり返る。そして聞こえてくるのはひそひそ話。そう、注目の的となってしまったのである。
来栖は真っ赤になって周りを見渡し、わなわなと震えてその場を走り去ってしまった。
ああ、また失敗。
俺はガックリとうなだれて周りにペコペコと頭を下げた。怪訝な視線をいくつも浴びながらパイプ椅子に腰掛けると、ケツも心も痛かった。
さらに時を重ねて1ヶ月後、なんと別の会社の説明会でも来栖と再会する。
俺の顔を見るなり逃げ出そうとした来栖を追いかけて、けれど意外にも来栖は足が速くて説明会開始直前まで本気の追いかけっこをしてしまった。
しかし開始直前まで粘ったお陰で来栖とまた隣の席に座ることができて、俺は説明会終わりについに来栖を捕まえた。
「一目惚れなんだ、俺と付き合ってくれ!」
「ばかじゃねーの?」
見事、撃沈。
ともだちにシェアしよう!