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禍々しいものを突きつけられた英理は黙ったまま男のそれを凝視していた。 いや、正確には言葉が出てこないのだ。 真に恐ろしい時は声も出ないのだということを身を以って知る。 男は脱ぎかけで足に纏わりついていたズボンを脱ぐと、ベッドに拘束された英理の身体を跨いで膝をついた。 いきなり突っ込まれるかと思って一瞬構えたが、男はそのまま英理の顔の方まで上がってくる。 間近で見る男のそれは、英理が思っていた以上にグロテスクだった。 よく見ると貫通されたピアスに加え、表面の皮にも小さなピアスがいくつも嵌められている。 凶器だ。 英理は思った。 地獄の使者が担いでいるようなあの突起物のついた凶器、と呼ぶに相応しい。 性器という器官を逸脱したその金棒を英理の鼻先に押し付けながら男が低く命じてくる。 「舐めて濡らせ。言っとくが歯なんて立てたらお前のものにも同じ事をしてやるからな」 脅されてブルリと身震いする。 その眼差しには絶対的な強い支配欲がたっぷりと含められていた。 英理は覚悟を決めると顔の前に突きつけられたピアスだらけの男の肉棒に舌を伸ばした。 舌先に触れる金属の感触に全身が総毛立つ。 両手を縛られているため己の口のみでしか奉仕できない英理は、弾みで逃げるペニスを何度も追いかけなければならなかった。 裏筋から先端までを舌で何度も往復し、亀頭の括れまで食むように口に含むと、舌先で鈴口を捏ね回す。 涎と自分の唾液とで顔中ベトベトになりながら、英理は男の陰茎を必死になってしゃぶった。 次第に顎が痺れ疲れてきたが男は奉仕をやめさせるどころかますます促してくる。 咥えたまま頭を押し付けられて、涙目になりながら何度も嘔吐(えず)いた。 男がくつくつと笑う。 「なかなか上手いじゃないか、英理」 大きな手の平が汗で額に張り付いた髪をそっと梳いていく。 されている事とは裏腹な優しい手つきに胸がきゅうとしぼられる。 しかし次の瞬間、鵜瀬は英理の明るく染めた髪を思いきっり掴んで引っ張ると嗜虐も露わに見下ろしてきた。 「…っぐ…う」 「お前みたいな生意気なクソガキを無理矢理屈服させるのは最高に興奮する」 鵜瀬の高揚した声が響く。 見上げると、ほとんど生気を感じられなかった鵜瀬の顔が喜悦に溢れていた。 これがこの男の本当の姿。 背筋がゾクゾクと震え、何かが這い上がってくる感覚がする。 陰茎の先端から欲望の露がジュワリと溢れ、英理の口の中を青臭いものでしとどに濡らした。 同時に自分の屹立からも愛液がトロリと滴り落ちるのを感じる。 おかしい、狂っている。 さっきまで確かにそう思っていたはずなのに、久しぶり味わえる快楽と、未知の世界を前に恐怖より好奇心が勝っていた。 これで中を擦られたら凄まじい快楽を感じることができるかもしれない。 舌や歯や口の中の粘膜を擦る突起物の感触を感じるたび、英理の頭の中はその事でいっぱいになっていく。 散々指で掻き回された後孔がヒクヒクと物欲しげに蠢いた。 「欲しいか?」 まるで英理の欲望を見抜いたかのように鵜瀬がニヤリとしながら訊ねてくる。 「こいつで尻を突かれた奴は大抵ハマる。そりゃあとんでもない世界を味わえるんだと」 唾液の糸を引きながら、口からずるりと金棒が引き抜かれていく。 その金棒の先端が英理のヒクつく後孔にグリグリと押し付けられた。 先走りと、唾液と愛液とが混ざりクチャクチャといやらしい音を立てて英理を更に煽りたててくる。 もう我慢できなかった。 なんでもいいから奥を、中を、入口を、弱いところを、擦って穿って突いて抉って掻き回して欲しくてたまらない。 「挿れて…っ…挿れてください…」 とうとう屈服した英理は、拘束された身体を捩りながら懇願した。 あまりの欲しさに涙が溢れ、視界を滲ませてく。 その歪んだ視界の先で鵜瀬がニヤリと笑った気がした。 「挿れてやってもいい、ただし………」 男が屈み、そっと耳元で囁いてくる。 英理は一瞬目を見開く。 しかしすぐに目を伏せると、従順に頷いたのだった。

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