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第14話
その後──いろんな好き嫌いの質問が出たが、二人ともほとんど答えることができた。
会話で教えたことがなくても、見ているうちに気がついたことが多いようだ。
ちなみにシャルは〝お気に入りの下着〟と〝言われて嫌なこと〟を間違い、アゼルは〝嫌いな人〟と〝最近怒ったこと〟を間違えた。
逆を言えば、その二つを相手は答えられたと言うことである。
「最終問題ィ、相手の一番の宝物は?」
「「…………」」
ガドの言葉に、二人はお互いをパッと見つめ合って黙ってしまった。
予想していた通りだが、口にするのは恥ずかしいようだ。じわじわと頬を染めていく二人を、ガドは面白がってながめている。
そのうちアゼルが耐えきれなくなって、ツンとそっぽを向いた。こちらの方が赤面度合いが重症だ。
シャルはそっぽを向かれて、顎に手を当て思案顔である。ほんのりと赤らんでいるが、ガドの予想通り腹を括るのはこっちが早かった。
「自惚れだったら恥さらしも良いところなんだが……不出来な俺は、それだけお前に愛してもらっている実感がある、と、言うことで……」
「ぅ、ぁ……ぐぐ……」
「お前の宝物は俺だと思うんだが」
いかがだろうか。
口元を手の甲で押さえて、紅潮しつつも告げられた言葉達は、ガドの手元のシートと一致する。
そして日々の自分の愛がちゃんと相手に届いていて、かつそれを認められたアゼル。
その衝撃に「ぁぅぅ……っ」と消え去りそうに唸って、愛しさと歓喜でソファーに倒れて丸くなった。
この魔王様は、本当に嫁の言葉に打たれ弱い。
両手を顔に当てて小さく丸まって撃沈した魔王に、シャルは「か、勘違いだったか、自惚れだったな……!?」とそれこそ勘違いで焦って撃沈したアゼルをゆさゆさと揺さぶった。
「ククッ、うははっ」
やっぱり面白すぎる。ここぞでキメるシャルは最高だ。そしてそれに毎度やられる魔王は愉快だ。
ガドは面白おかしい二人を腹を抱えたい気持ちで笑って眺めた。
そのうちに勘違いされた魔王がガバッと起き上がって、まだまだ赤い顔のままシャルに抱きつく。
「馬鹿野郎! せっせっせせ正解だっ、クソッ、喜びやがれッ! 不動だぜッ」
「! そうか、よかった。勘違いだと思って恥ずかしくて死にたくなってきたところアゼルアゼル締まってる首が締まってるうぐぐ」
「しっ死ぬとか言うな死ぬとかッ!」
「アッハッハッハッ!」
まったくこの魔王、本人以外にはペラペラ語れるくせに毎度会話の流れでもなく改めて言わせると照れくさくなるのはなぜなのか。
そして逆にすぐに気持ちを言葉にするシャルによって、オーバーキル気味にやられている。馬鹿だ。
抱きしめられすぎてボフン、と押し倒されるような形でソファーに倒れ込んだシャルが、自分に纏わり付くアゼルの髪をよしよしとなでる。
「それでアゼル、俺の一番の宝物を知っているのか?」
「ンッ!?」
「俺は言葉でも態度でも伝える努力をしていると思うが、どうだろう」
「そ、そんな、畏れ多い、じゃない、俺ごとき、いや、無理だ、無理だぜ、俺以外だと嫌だ、でも口にするのは無理、死ぬ、」
「うん? ブツブツ何を言っているんだ?」
キョトンとするシャルは、アゼルが胸を張って自分だと言うのを待っているのだが、彼はぐるぐると回る思考に飲み込まれていた。
自分の気持ちに絶対的な自信があるのに、逆となると不安になる面倒な男なのだ。
シャルはブツブツ言い出して答えてくれないアゼルに、自分の愛が足りてないのか、と思い至った。
確かに魔王コレクションをしていない自分は、彼に比べて愛が薄いのかもしれない。
そうなればすることは一つ。
わからせてやればいいのだ。
強く意気込んで、アゼルの体に回していた腕の力を懸命に強くして、サラフワの髪に頬をすり寄せる。
「愛してるぞアゼル、俺はお前が大好きだ。お前と結婚してよかった。これから先もお前以外と添い遂げる気はない。俺の唯一はお前だ。 笑った顔が好きだ、拗ねている顔も好きだ。泣いていると悲しくなる。どれも大好きだ。それから、ん? …………ガド」
「クックック、なんだ?」
「アゼルが気絶してる」
──心臓を突き刺されても倒れない魔王は、愛する宝物の胸の上で羞恥と幸福と尊さにより、それはそれは幸せそうに気絶していた。
後に空軍長官は部下に「魔王って愛の告白で気絶するんだなァ」としみじみ語ったという。
結(→未掲載オマケ)
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