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新たな生活

運命の番── そんなものは幻想だと信じなかった。 今思えばそれなりの気付きはあったのかもしれない。でも実際相手と出会ったところで最初はその存在に気がつくこともなかった。 ミケルは目の前にいるエイデンに対して只々「見つけてくれてありがとう」という感謝の気持ちでいっぱいだった。 あの屋敷を出てエイデンとの二人の生活が始まる。 新たな住処となるのはミケルが以前住んでいた空き家だった。こんな所に……と正直少し気がひけたものの、エイデンはそんなの御構い無しといったように、二人で静かに過ごせば何処でもいいと言って笑った。 ミケルだってエイデンと同じ気持ちだ。極端な話、エイデンさえいてくれれば何もいらないとさえ思っていた。 日々湧き上がって来る多幸感や愛しいと思う気持ち。自分がこうやって感じている思いはエイデンも一緒なのだとミケルにはちゃんとわかっている。運命の相手、強いαの潜在的な能力の様なものがミケルにもきっと影響しているのだろう。 「エイデン様。行って来ますね」 「ええ……? もう行っちゃうの? 僕もう少しミケルと一緒に寝ていたかったな」 ベッドの中で気怠そうなエイデンがミケルの服の裾を握る。 「はいはい……」とミケルはその手をさっと握り優しくチュっとキスを落とした。 「もういい加減そうやって引き止めるのやめてください。名残惜しくなるから……ね? もう行かないと。今日もいつもの時間に迎えに来てください」 ミケルは笑いながらそう言うと、上着を羽織り外に出た。 駆け落ちよろしく家を出ても、働かなければ生活はできない。働きに出ると言うミケルに対し、エイデンは「そんなのは必要ない」と言いミケルが自分から離れるのを極端に嫌がった。そんなに自分を必要としてくれ執着してくれるのはミケルにとって経験のない事で素直に嬉しく思ったし、そんなエイデンが益々愛おしく思えた。 「でも働いてお給料貰わないとご飯だって食べられませんよ? 」 この界隈では自給自足で食物を得ることも多く、物価も高いわけではない。それでも日用品の調達や医療にかかる時などは当たり前だが金が必要になる。それなりに収入がないとやはり困るので、それを思ってミケルはエイデンにそう言うも、 エイデンはあまり腹が減らないのか「ご飯なんて食べなくてもいい」などと滅茶苦茶なことを言ってミケルを困惑させた。 獣人であるエイデンの獣の姿が姿なだけに、普通の人間とは体の構造が違うのかもしれない。自分の知っている狼や虎、犬猫といったよくいるような獣人とは違い、エイデンは「ペガサス」という特殊な獣人だった。所謂伝説の生き物とも空想の生き物とも言われるような生物。しかもつい最近まで本人ですら獣人という自覚が全くなかったという特殊さがあった。 ミケルは「一緒に食事もしたいし共に生きるためにはある程度のお金も必要なのです」と、文字通りミケルとずっと一緒にいたがるエイデンを納得させた。 幸いミケルの勤め先、あの屋敷の庭園の管理の仕事は辞めたわけではなく、元々誰も訪ねてくるようなこともないあの小屋に一人で住まわせてもらっていた。ミケルの自由に屋敷も出入りしていたという理由で何も問題なくそのまま居座り、働き続けた。 そう、ちょっと寝床が変わっただけのことだ……

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