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だって、手を出してこないから(終)
一つの夜着に包まる二人の姿は、まるで童が冬の日に作る雪だるまのようだった。
いまだ行為の熱を残したままではあるが、褥に座り、裸の肌を触れ合わせている。是愛は耶雉を背後から抱き締め、その稀なる金糸の後頭部に口付けを落とす。
こうして温もりを分け合っているだけでも、どうしようもなく幸福で、愛おしい気持ちが溢れてくる。
「あ……」
「どうした?」
ふいに声を上げた耶雉の視線を追うと、それは灯り取りに薄く開かれた半蔀の方向だ。先ほどまで宵闇の濃紺が漂っていたが、淡い月明かりが帯を投げている。
「雲が晴れたな。今夜は二日だったか」
「是愛さま、今夜は三日月ですよ」
「そうだったか」
二日でも三日でも構わないが、なんだかいつもより明るい気配の月光を、共に視線を投げて眺める。
「毎晩、月を見ていました」
「君は月が好きか?」
鎖骨のあたりに回されている筋の張った腕に、耶雉はまだ生温く熱を帯びる頬を寄せた。
「……だって、触れてくださらないから。月に帰ってしまおうかと思って」
珍しく拗ねた声に、是愛は顔の筋力を失った。へらりと開いてしまった唇を噛みしめ、後ろから抱き締めていてよかったと、心の底から安堵する。
「なんと。……私の人魚は、月に別邸があったとは」
戯れて一際強く抱き寄せると、そのまま横抱きに持ち上げる。予想外のことに、耶雉の悲鳴が短くあがった。
「な……ど、どうしたんです?」
「君と月が見たくなった。君に、触れながら」
そうすれば、迎えも来ないだろう。……というよりも、月へのけん制、というところだろうか。
「……はい」
耶雉は頷いて微笑むと、体勢が崩れないように、是愛の肩へ腕を回した。
二人で見る月は輝いて、どんな宝物 よりも尊かった。
了
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