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1日目ー1

「まぁまぁ、遠いところ良くいらしてくれました。ず~っと山道で、大変だったでしょう?不便なところですが、どうぞ自分の家だと思ってゆっくりして下さいね」  木の柱が飴色に光る居間に通され、大竹は「お世話になります」と、まだキツネに摘まれたような顔をしながら頭を下げた。目の前のおばあちゃんは顔中を笑い皺でいっぱいにして、西瓜が沢山乗ったお盆を卓袱台の上においた。 「すいか!」 「おじちゃんだれ~?とも兄ちゃんのおともだち~?」 「これ、お客さんはお疲れなんだから、お前達(すぐる)のとこにでも行ってな」  この家の子供達だろうか、まだ幼稚園に上がるか上がらないかという小さな子供達が、好奇心丸出しの顔で大竹と設楽の足下に絡みついてくる。聞けば、おばあちゃんと同居している長男夫婦の孫、つまり、設楽の従兄の子供で、おばあちゃんからはひ孫に当たるのだという。 「ありがとう、ばあちゃん」  設楽が嬉しそうに西瓜に手を伸ばすと、おばあちゃんはニコニコ笑いながら、大竹にもう1度西瓜を勧めた。  何で自分はここにいるのか。  そもそもの事の起こりは写真部の撮影旅行だった筈だ。だがその後の展開が、未だに大竹には納得がいかない。  とにかく、撮影旅行に俺も連れて行けと顔を合わせるたびにブーブー言われ、適当にやり過ごしていたとある土曜日のこと。「デイキャンプをしよう」と誘われ、いつもの通りに二つ返事で引き受けて、朝迎えに行ったら何故かその日は設楽の両親が2人して大竹を待っていて、あれよあれよと4人で奥多摩のキャンプ場に行く羽目になったのだ。 「ね、先生。話は聞きましたよ?うちの智一がまた先生に我が儘を言ってご迷惑をおかけしているそうですね?」 「写真部の撮影旅行なんて、一緒に行けるはずないのに、もうこの子ったら困った子で、本当にすいません」 「……はぁ」  奥多摩湖畔のキャンプ場は、土曜日のせいか人が多く、あちこちから楽しそうなさざめきが聞こえてくる。  このステキ空間で、大竹はやたらと冷や汗をかきながら、居心地の悪い思いをしていた。  何故設楽の両親が一緒に来るんだ。  つうか、お母さんマジ若いな……。お父さんはそれ相応なのに、お母さんなんべん見ても40行ってるようには見えないんだけど……。つうか、むっちゃ仲良いんだけど。目のやり場に困るんだけど。  で、何でその2人が絶妙のコンビネーションで俺に攻撃を仕掛けてくるんだ……。  攻撃?  イヤこれ攻撃……だよな? 「先生、とも君にはよ~っく言っておきますからね!写真部の撮影旅行の邪魔はさせませんから!」 「で、聞いた話によると、その写真旅行のせいで、夏休みの計画が進んでいないんですって?あ、先生、ビール召し上がりませんか?」  ニコニコと笑いながら、設楽の父親がビールを勧めてくる。 「いや、帰りの車があるんで」 「あ、大丈夫ですよ。私飲めないんで、帰りの運転は任せてください!」  夫婦揃って満面の笑顔で水滴のついた缶ビールを目の前に差し出されると、大竹も「じゃあ……」と受けとらざるをえなかった。 「でね、先生。お願いがあるんですけど」  ……キタゾ……。  内心で大竹は身構えた。  こんな接待、普通でやられる訳がない。

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