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1日目ー4

「俺は親もこっちにいるから毎年戻ってくるんですけどね。でかい従兄弟達はみんな昼間は働いてるし、家で暇してる従兄弟供はみんなガキだし、毎年退屈でしょうがなかったんですよ。いや~、大竹センセーが来てくれて良かった~」  年は大竹よりも上くらいだろうか。がっしりと骨太な体格や大っぴらな笑顔は、スポーツインストラクターか何かのようで、あまり大学の研究員には見えない。 「ということは、遠山さんは大学で研究職を?」 「まぁ、まだ研究助手なんですけどね。ノルマばっかりきつくて」  たはは、と笑いながら、どうぞどうぞとビールを勧めてくる。ビールのコップを空にしながら設楽に目をやると、親戚のおじさん達にビールを注ぎながら話をする設楽の後ろに、同い年くらいの女の子がずっとついて回っていた。  大竹の視線に気づいたのだろう、空になったコップにビールを注ぎ足しながら、優が「ああ」とその女の子を顎で示す。 「あいつは美智(みさと)。俺の妹なんですけどね」 「高校生ですか?」 「そう。16歳。俺が31だから、結構年離れててさ。も~、遅くに出来た子だから、親父達も甘やかしてね」  甘やかしているのは親だけではないらしい。優は照れくさそうにしながら「まぁ、俺も美智にはついつい逆らえなくてね」と笑った。 「ね、センセ」 「先生は辞めてください。仕事で来てる訳じゃないし、俺の方が若いんで」 「あれ?いくつ?」 「今年28。まだギリ20代なんで」  大竹が真面目に言うと、優はビールを吹き出した。 「あはははは、そういうこと気にするタイプだとは思わなかった!男は30代からでしょ!OK、じゃあ大竹さん?それとも下の名前で呼んだ方が良い?」 「いや、大竹で。呼び捨てで良いですよ。どうせ生徒達に呼ばれ馴れてるし」 「さすがに呼び捨ては何だから、大竹くんで良い?じゃタメ口って事で、俺のことも優で良いよ」  日頃から誰にでもこんなにフレンドリーなのだろうか。ぶっちゃけ大竹の苦手なタイプだ。  その優が、大竹に更に顔を寄せた。 「ね、大竹くん。俺さ、妹に頼まれてんのよ」  その少し困ったようなにやけ顔を見て、大竹は小さく溜息をついた。  これはこの1週間、窮屈で面白くない思いを強いられそうだ。  美智とかいう優の妹が頬を赤らめて設楽の後ろをついて回るのをチラリと見つめて、大竹はコップのビールを一気に飲み干した。

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