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1日目ー3

「先生、疲れた?これ食べたら奥の部屋で横になると良いよ」  笑顔で設楽が勧めてくれて、大竹は思わず照れくさそうな笑顔を浮かべた。 「せ…先生……」  いつもは見せないような大竹の顔に、設楽がそっと手を伸ばしてきたその時。 「久しぶり~、智一来てるって~!?」 「うひゃ~、相変わらず生っちろ~!」 「あ、誰このイケメン!!」 「まぁまぁ遠い所をわざわざよくおいで下さいました~!」  いきなり縁側からゾロゾロと団体様が現れた。未就学児からお年寄りまでといったところか。  正直奥の部屋でゆっくりしようかと思っていた大竹と、奥の部屋でいちゃこらしようかと思っていた設楽の目が、一斉に点になった。  設楽は一瞬「ちっ」と口の中で小さく吐き捨てたが(そしてそれは大竹の耳にだけはばっちりと聞こえた……。何するつもりだったんだよ、設楽!)、さすがに慣れているのかすぐに顔色を戻し、「久しぶり~!これ東京土産ね!」と大量に運んできた紙袋をみんなに差し出した。 「こっちが東京バナ○。そんでこっちがラスクの詰め合わせ。後、東京の土産じゃないけど、○陽軒のシュウマイもついでに買ってきた。むしろ俺が食べたくて買ってきた!」 「あ!なにこの東京バナ○!ヒョウ柄だよ!?可愛い!」 「俺シュウマイが良い!」  皆がわいわいとお土産を手にして盛り上がっている。聞けば、皆ご近所さんや親戚で、「まぁ、大体みんな親戚なんだけどね」とおじさんが笑った。  ひとしきりお互いの近況を報告し、一段落付くと皆の視線は大竹に集中した。 「……どうも、大竹です。お世話になります……」  元々表情の乏しい大竹だが、呆気にとられて目を白黒し、ますます無表情になっている。 「あら~、まあまあホントにイケメンね~!背ぇ高いわ~。布団から足はみ出るんじゃない!?」 「やあ先生、武兄(たけにい)から山登るって聞いてますよ。明日にでもその辺案内しますわ~」 「えっ、おじさん先生なの!?夏休みの宿題手伝ってよ!!」 「きゃー、先生、彼女は!?うちに丁度年回りの合う娘がいてね~?」  一斉に声を掛けられても、聖徳太子じゃあるまい、さすがの大竹もどうして良いのか分からず、少し涙目になって設楽に助けを求めた。  田舎暮らしをしている連中にとって、東京からの客人は格好の暇潰しだ。設楽は2人で1週間まったりとして、あわよくば「卒業までの禁止事項」を一時解禁に出来ないかと目論んでいたのだが、どうもそれは考えが甘かったと地団駄を踏むしかない。まぁ、大竹にとってはそこだけはほっとしたのだけれど。  散々皆で盛り上がり、夕方過ぎには更に町で仕事を終えた連中も集まってきて、夕飯は親戚一同集まっての宴会となった。 「え~、大竹先生は化学の先生なんだ。どうも、俺は遠山(すぐる)。東京のH大で量子光学やってます」  智一の従兄だという優は、笑顔で大竹と智一の間に座り込んで、大竹のコップにビールを注いだ。 「智は未成年だからビールは無しだろ」 「ひでーな、優兄(すぐるにい)!」 「お前はあっちでおじさん達に挨拶して来いよ!そろそろ親戚づきあいも出来るようにならないとな」  年嵩の従兄にそう小突かれれば、設楽も渋々席を立たざるをえない。設楽が上座の親戚にビール瓶を持って近づいていくのを何となく眺めていた大竹に、優が人好きの良い笑顔を向けた。

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