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4日目・登山ー1

 朝四時に目覚ましが鳴り、眠い目と重たい下腹を宥めながら山登りの支度をして朝ご飯を済ませると、浩司おじさんは5時きっかりに縁側から顔を出した。 「よく眠れたか?」 「うん!」 「今日はよろしくお願いします」  設楽と大竹が揃って挨拶すると、「おはよう!」と浩司の後ろから声が聞こえた。  ―――え?―――  浩司の後ろには、案の定というか何というか、遠山と美智が山装備をして立っていた。 「……優兄も行くの?」 「おう。暇なんだって言ったじゃん。美智のことはもう良いよ。悪かったな。でもほら、せっかく従兄弟が揃ったんだしさ、一緒に山登るくらい良いじゃん?」  昨日あんな別れ方をしたのに全く悪びれていない遠山の顔が、設楽の気持ちにザリザリと爪を立てた。  そんな設楽を目の端に捉えながら、大竹は表情を変えずに昨日貰っておいた登山地図を取り出した。 「浩司さん、もう一度ルートの確認良いですか?」  浩司はすぐに頷くと、2人は地図をつきあわせ始めた。 「一応ルートは昨日言ったとおりだけど、休憩ポイントはこことこの辺を考えてるんだ。まぁ、それは実際登ってみたペース次第だけど」 「危険箇所は?」 「穏やかなルートだから普通に登ってれば大丈夫。ただ、この辺は落石があるかもしれないな。先生は大分登り馴れてそうだけど、足速い方?」 「いや、合わせます」  遠山も一応一緒に地図を覗き込んでいるがその手に地図はなかった。浩司の話にも生返事を返している。 「あれ?優兄、地図は?」 「見てもどうせ分かんないし、浩おじさんいるならついてきゃ良いんだろ?」 「うわ…、地図くらい持ちなよ。はぐれたらどうする気?あ、それとも、登り馴れてるルート?」  嫌味ではなく本気で心配している設楽に向かって、遠山は憮然とした顔で反論した。 「まさか。こんな田舎で育って、何でわざわざ山なんかに登りたいと思うんだよ。どうせ皆で登るんだろ?遅れないから大丈夫だよ」  これには設楽もイラっとしたが、浩司もさすがに苦笑いした。 「まぁ、山育ちだからついて来られない筈はないだろうけど、もしアレなら智一達は先登っちゃって良いからね。こいつらの面倒は俺が見るから」  浩司が設楽の頭をポンポンと叩くと、遠山は憤慨して2人に詰め寄った。 「何だよ!皆で登るんだろ!?山育ち舐めんなよ!」 「ハイハイ、遅れんなよ」  何となくそれをきっかけに、5人は登山口に向かって歩き出した。  今日もまた美智は設楽に張り付いている。大竹はできるだけ美智を意識から追い出すように、山の稜線に目をやった。  設楽は眉間に皺を寄せながら、作り笑いを浮かべるものの、それでも美智から視線を外している。自分に彼女がいると思ったときには近寄らずにいたくせに、それが彼女ではないと分かった途端にすり寄ってくる美智を、設楽が心底軽蔑しているのがその目から見て取れた。  設楽は女にもてる。  女にもてるし、実際彼女もいたのにゲイになったのは、生まれつきの嗜好のような物もあるのかもしれないが、こうした女の媚びへつらいに嫌気がさしているからなのかもしれない。こういう女の態度を「可愛らしい」と思えない時点で、やはり設楽はゲイになる要素があったんだろうな、と思いながら、それなら全く同じ理由で、やはり自分もこうなるべくしてなったのだと思う。まだ設楽には自分はノンケだノンケだと言われるが、大竹もああいった女に擦り寄られても、それを嬉しいとは思えないのだから。

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