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4日目・登山ー2

 登山口に着いた時には、自然と先頭を設楽と大竹が、その後ろを遠山と美智が並んで、最後を浩司が歩くことになっていた。美智は智一と歩きたがったようだが、設楽は笑顔は見せるものの、ことごとく彼女を無視した。  背の高さに合わせてコンパスの長い大竹は、いつものように、歩調を少し緩めて設楽に合わせて歩く。山育ちの遠山と美智も難なくついてくるが、それでも先頭の2人の歩調は、少しだけ後ろの2人よりも速かった。 「待ってよ智く~ん!」  美智が声を掛けても、設楽は歩調を緩めることはしないで、敢えて距離を取ってから、止まって2人を待っていた。 「やっと追いついた~」  美智が笑顔で追いつくと、休憩タイム終了とばかりにまた先程の歩調でさっさと歩き出す。休みなく歩かなければならない美智の息は、勾配が急になってきた辺りから乱れ始めた。 「……設楽、さすがに意地が悪いぞ」 「美智が泣き言言ったら、あいつ置いて2人で登ろう」 「おい」  大竹が呆れた顔をしても、設楽は素知らぬ顔をしていた。ストレスが溜まっているのは分かるが、その態度はいかがなものか。  どう言い聞かせたものか。だが、設楽の気持ちは分からないではない。大竹だって、美智は正直うざいのだ。  勾配が急だろうと、でかい岩が道をふさいでいようと、設楽の足は緩まない。むしろこの時ばかりは美智に邪魔されないのだからと、嬉しそうにひょこひょこ歩いている。  設楽と山を登る時、大竹はいつもヤギの子供に懐かれたような、微笑ましい気持ちになる。時々大きな岩場に来ると、大竹は後ろに向かって「落石注意してくれ」と声を掛け、大きな岩を乗り越える時は設楽の腕を引っ張ってやる。大竹のでかい掌で設楽の腕を掴むと、設楽は少しだけ照れくさそうな顔をして笑った。  もうその頃には後続の姿はかなり後ろにあったから、さすがに大竹は「少し待とう」と設楽を止めた。 「もう少し眺めの良いところまで先に行こうよ」 「おい。いくら何でも、グループ登山なんだから団体行動だ」 「だってあいつらが勝手に……!」  駄々をこねようとする設楽に、大竹は「設楽」と少しきつめの声を出した。その声に、設楽の顔はすぐにシュンとする。なんて可愛い顔をするんだ。設楽の膨れ面が愛しくて、大竹は思わず笑った。 「俺も気持ちは一緒だ。もう少ししたら浩司さんに声かけて、別行動にさせてもらうか」  途端に設楽の顔が、花が咲いたような笑顔に変わる。  結局自分は設楽に甘いと、大竹はその顔を見て小さく苦笑した。  2人で後続を待ちながら、辺りの景色を見回した。爽やかな風が心地良い。 「すげー良い風だね」 「あぁ」   大竹が水を取り出して口を湿らせると、設楽もそれに倣ってザックから水を出した。 「あ、先生、この黄色い花、何?」 「ニッコウキスゲだろ。よく見る花だろうが」 「うん。よく見るけど、でも俺、あんまり花の名前とか今まで興味なかったから」 「まぁ、名前は知らなくても、綺麗なものは綺麗だよな」 「うん」  暫くそうして2人でいると、ようやく遠山達の姿が見えた。
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