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7日目の帰り道-2

 まだこれからたくさんの出会いを繰り返す設楽に、年の合わない自分がいつまでも好いてもらえると思えるほど、自分は厚かましくはないつもりだ。まだ自分は何とか20代だが、設楽が卒業する頃には30になる。10年20年経った先のことを考えれば、男盛りの設楽と比べ、自分の衰えは隠しようもない。  それを抜きにしたって、設楽はあんなにもてるし、実際良い男だ。周りの奴が設楽を放っておく訳がない。  きっと、いつか設楽に似合いの奴が現れる。設楽の隣りに立っても遜色なく、年回りも丁度で、設楽に我慢させるばっかりじゃない、優しい相手が。  大竹の途惑ったような、哀しそうな顔を見て、設楽は悔しそうに歯ぎしりをした。 「あのさぁ!もっと俺を信用しろよ!!あんたが思ってるより、俺はあんたが好きなんだよ!俺はあんたみたいにこうするべきだとか、ああするべきだとか綺麗事なんか言わないからな!絶対にあんたから離れないし、例えあんたに好きな奴ができたとしても、誰が別れてなんかやるもんか!つーかあんたが他の奴好きになるなんて許さないよ!?あんたが俺以外見ないように、死に物狂いでまとわりつくからな!忘れたの?俺、ストーカーなんだよ?」  設楽のあまりの勢いに、思わず大竹は設楽を見つめ、山側に車をぶつけそうになり、慌ててハンドルを握り直した。 「はは…、そっか。ストーカーか……」 「そうだよ!俺はあんたを絶対に諦めないから、あんたも俺を諦めるなよ!!みっともなく足掻いてくれよ!簡単に身を引くとか言うなよ……っ!それって結局、俺のことなんかすぐ諦められちゃうってことじゃんかよ……っ!」  ぎゅっとシャツの裾を握ってくる設楽の目に、涙が浮かんでいる。設楽の涙は、いつも大竹の心をグラグラに揺さぶるのだ。  素直で幼い設楽の愛情が、嬉しくて切なかった。  今までに、自分を好きだと言った女達は、みんなすぐに離れていった。気持ちは変わる物なのだ。  だが、それを跳ね飛ばす設楽の勢いが、大竹には嬉しかった。 「そうだな。お前がストーカーだって忘れてた」 「そうでしょう?言っとくけど、俺相当しつこいよ?」 「あぁ、そうしてくれ」  大竹が笑うと、設楽もやっと安心したように笑った。  設楽は知らない。自分は臆病で、いつだって別れの予感に怯えている。   だから設楽の強い力で、自分の弱さを砕いて欲しい。  その強さで、自分を繋ぎ止めて欲しい。  あの緑の木々の中で、設楽は自分を道しるべだと言った。  いいや、そうじゃない。  設楽が。  自分がグラグラと揺れ動いたとき、設楽という存在こそが、俺に道を示してくれるのだ。 「先生、大好きだよ」 「ごめん。俺情けないな」 「ううん。先生が俺のこと信じてないのはむかつくけど、でもそんなに俺のこと好きだって分かって、嬉しかった」  設楽は照れくさそうに笑って、シフトチェンジのためにギアに置いた大竹の手に、自分の手を重ねた。 「先生はさ、もっと俺の前でそうやって、思ってることちゃんと言ってよ。いつも何にも言ってくれないから、まさかそんな事考えてるなんて思わなかった。愚痴とか弱音とかだって、言われたら嬉しいんだよ?俺さ、そういうの受け止められるくらいの男にちゃんとなるからさ」 「お前それ以上良い男になってどうするんだよ。これ以上もてるな」 「だから、先生以外の人にもててもしょうがないでしょ!特に女子とか!マジ勘弁だし!」  美智のことを思い出したらしい。設楽はイヤそうに顔を顰めた。その顔を見て、大竹は思わず笑い声を上げた。 「うん。ごめんな、設楽」  重ねた手が暖かい。  その手の暖かさが、泣きたくなるほど幸せだと思った。

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