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7日目の帰り道-1
2人を乗せた車はカーブを切りながら、山道をひたすら走っていく。先日車を停めたポイントを通過する時には、2人とも何となくそわそわとした気持ちになった。
「先生、色々あったけど……大丈夫だった?疲れてない?」
「あぁ。多少疲れたけど、来て良かったよ」
「そう?先生がそう思うんなら良かった。俺としては、1回くらい先生とエッチなこと出来ないかなと思ってたんだけどさ。何にも出来なくて、残念」
「あんだけ散々しといてか」
「あれっぽっちで!?俺としてはせめてさぁ、せめて先生の扱かせてもらうくらいはさぁ」
「だから、それはない」
大竹が喉の奥で笑うと、設楽もちょっとむくれてから、それから自分も一緒に笑った。
暫くそのまま車は快調に走っていたが、設楽は窓を過ぎる景色を見ながら、ふと大竹を見た。
目には、不安を湛えている。
「先生、本当に来て良かったって思ってる?俺……俺たくさん先生にもみんなにも迷惑かけたのに……」
「……そんな顔すんな。イヤ、確かに色々あったけどさ。でも俺は今回のことで、考えずにいたことをイヤって程考えることができて、良かったと思ってる」
「考えずにいたこと?」
不思議そうに設楽が大竹を見つめた。相変わらず、大竹の表情は読みづらい。
「ああ……。あの子みたいにお前に思いを寄せてくる女ってのは、この先も出てくるよな、とか」
「俺、ゲイだけど?」
間髪入れずに返されて、大竹は苦笑した。
「ああ、ゲイなのは分かってる。いや、女じゃなくてもさ。やっぱ俺、お前と一回りも年離れてるから、色々考えたよ」
「……そーゆー奴が出てきたら、どうするのさ」
急に設楽の眉間に皺が寄る。不機嫌そうな設楽に、大竹は「どうしたモンかなぁ」と小さく呟いた。
設楽の田舎にいる間中考えていたことではあるが、すぐに結論が出る物ではなかった。「どうすべきか」と「どうしたいか」は、相変わらず自分の中で反対のベクトルを示しているのだ。
「……お前が他に好きな奴ができたら、身を引くべきだろうとは思うよ。だってお前の気持ちはお前のモンだから、誰に義理立てする必要もないと思うんだ。でも、なんべん考えても、俺の方は諦め切れそうにねぇや。綺麗に身を引くことはできても、いつまでも鬱陶しくお前のこと好きでいるんだろうな……。まぁ、その位は勘弁してくれ」
大竹が少し寂しそうにそう言うと、設楽が怒ったような顔で「それ、つまり逆の時もそうしろって事?」と睨みつけてきた。
「え?」
逆の時?
何を言われたのか分からなくて、大竹は前方から目を離して、設楽を見た。
「逆の時だよ。あんたに俺より好きな奴ができたら、俺にも綺麗に身を引けって言ってんの?」
「俺に?」
俺に、設楽より好きな人が?
大竹は、何か初めて聞く言葉を聞くような気持ちで設楽のきつい目を見つめ返した。
昔から、恋愛に関しては人より疎かった。今まで付き合ってきた女は何人かいたが、どれも向こうから告白されて付き合い始め、真面目に誠実に付き合っているつもりなのにすぐに振られた。まぁ、この性格だから仕方がないと思うが、何度か同じパターンを繰り返していくうちに、もう人を好きになるのが面倒になってしまったのかもしれない。誰を見ても、自分の心は動かない。ずっとそう思ってきた。
だが、設楽は違った。
設楽だけが自分の心を揺すぶり、自分の気持ちを奮い立たせるのだ。
例え設楽と別れたとしても、設楽を前にしたときのような気持ちが、他の人間を相手に起こるとは思えなかった。正解を知ってしまったのだから、もう偽物で満足ができるとは思えない。
だから、設楽以外の人を好きになるなんて、大竹には考えられなかった。
それなのに―――。
大竹の驚いたような顔に、設楽はイラっとして声を荒げた。
「何その顔。何であんた、自分ばっかり俺のこと好きとか思ってんの?何で俺が心変わりすること前提なの!?」
「だってお前……」
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