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おまけ1・設楽家にて-1

 田舎から戻り、設楽の家のチャイムを鳴らすと、母親だけでなく父親も帰宅していて、2人で揃って出迎えてくれた。土産を降ろす大竹に労いの声を掛け、上がって休んでいってくれと勧めてくる。 「遅くなりまして申し訳ありません。あの、もうお聞きかもしれませんが」  大竹が帰参の挨拶と謝罪を口にしようとすると、父親がそれを遮って先に頭を下げてきた。 「すいません先生、なんか智一がすごいご迷惑をおかけしたみたいで」 「も~、智くん~?田舎から何件も電話かかってきたよ~?」 「……な、なに?電話って……」  始めは玄関先で挨拶だけしたら帰ろうかと思っていたのだが、さすがに電話の内容が気になって、お邪魔していくことにした。だが、設楽の両親は電話のことなど気にも留めていないのか、「先生、今日はさすがにお疲れでしょうから、泊まっていって下さいね?うちお布団普通サイズしかないですけど、足出ちゃうかしら」などと暢気な事を言っている。 「いや、お話だけ伺ったら帰りますから」 「あらやだ、そういえば、田舎のお布団も普通サイズでしたよね?サイズ足りました?先生背高いから、普段はどうしてるんですか?うちも智くんが今頃伸びてきたから、お布団直さないといけないですよねぇ?」 「いや……今は通販でロングサイズの布団も普通に売って……ってそうじゃなくて!俺帰りますからね!?」 「お酒は何召し上がります?由希子さん、こないだもらった日本酒どこ置いたっけ?」 「車ですから!本当に帰りますから!!」 「も~、今更そんな他人行儀な事言わないで下さいよ。あ、バーボンもありますよ?」  あの兄妹が人の話し聞かないのは血か!?血なのか!?設楽一族、人の話聞けよ!!!  大竹が切れそうになっていると、さすがに設楽が「いい加減はしゃぐなよ!」と両親を止めにかかった。 「先生だって一週間も俺に付き合って家留守にしてたんだから、早く帰りたいに決まってんだろ。で、田舎から電話って?」 「あぁそうだった。じゃ、お茶だけでも淹れてきますね」  やっと2人が居間から出て行くと、大竹はげんなりとした顔をしてソファに腰を下ろした。 「……お前の両親、こないだのデイキャンプの時もすごかったけど、いつもあんななのか……?」 「あ~、大体あんなテンションかも……」 「……すごいな。疲れないのか……?」 「いや、逆にアレが大人しくなっちゃうと、こっちが心配になるよ?」 「……そういうもんか……」  ソファの背もたれに体重を預けて溜息をつくと、すぐに両親がコーヒーとおつまみと手作りらしいゼリーを持ってきた。 「先生、甘い物大丈夫ですか?」 「はい、お気遣い無く」 「赤ワインのゼリーと梅酒のゼリーだったら、どっちが良いですか?あ、どっちもアルコールは飛んでるから大丈夫ですよ?」  ……酒呑みの家だ……。お母さん、こなだい酒飲めないって言ってたのに……。  その二つはどうやら設楽の好物らしく、設楽の目が急に輝きだした。 「先生、俺のお薦めは赤ワインのゼリーだよ?」 「じゃあ赤ワインで……」  フルボディの赤ワインで作られた渋みのあるゼリーは甘さも控えめで、何種類かのハーブが加えてあるらしく、複雑な味わいだ。ブランデーで風味付けされた生クリームとも良く合って、とても家庭で出てくるような味には思えなかった。

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