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おまけ1・設楽家にて-2

「どう、先生?」 「あぁ、旨いな。これお母さんが?」 「はい。お口にあったなら良かったです」  設楽の両親はニコニコと機嫌良く笑いながら、大竹と設楽がゼリーを食べている姿を眺めている。  ……いかん。このままでは家に上がった目的がうやむやにされてしまう……。 「あの、もう電話でお聞きかもしれませんが」 「あぁ!智くんが色っぽい人妻と不倫してストーカーって話!そうそう、びっくりしちゃった!」  大竹が水を向けると、お母さんはぽんと手を叩いた。お父さんもうんうんと頷きながら、設楽に顔を寄せてくる。 「智一、年上の人妻も良いけど、ストーカーはまずいだろ?」 「いや、もうストーキングはしてないし。つぅか、年上の人妻ってとこはスルーかよ」 「遠くから憧れてる分には良いけど、不倫って、相手の旦那さんの気持ちになって考えてみろ!」 「いや、相手の旦那さんはウェルカム状態だったし」 「何そのウェルカム状態って!ちょっと詳しくお父さんに話して!」 「っていうか、あんた彼女はどうしたのよ!」 「それ、すぐ別れたから……」  ……ずれてる。何かこの親子はずれてる……。  大竹は何だか言葉の分からない国に迷い込んだような気分になった。朝起きたらそこは異世界でした系な?  とりあえず、設楽の家族がずれてようが何だろうが、自分はご両親から引率を目的として頼まれた教師なのだから、不手際だけは詫びておかなければならないだろう。 「俺の監督不行届で、ご実家に大変ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」  何とか3人の意識をこちらに引きつけて頭を下げると、設楽の両親はキョトンとした顔をした。  え……何その顔……。 「やだ、先生。不倫してたのはうちのバカ息子ですよ?」 「いや、でもそれを田舎で暴露してくる必要はなかった訳ですし」  なおも大竹が頭を下げようとすると、お父さんは急に父親らしい顔になった。それでも口元には微笑を忘れない。 「先生、大体のことは聞きました。何しろ色んな奴が電話してきましたから、色んな角度から聞きました。姪が先生に大変ご迷惑をおかけした話も。謝るのはこちらの方です。すいませんでした」 「……いや、俺は何も……。むしろ設楽の方が……」 「あぁ、智一は自分がバカやったんですから、少しくらい良い薬です。自分が好きでもない女子につきまとわれて、ストーカー被害がどんなに怖いか身をもって覚えりゃ良いんですよ」 「ちょ!ストーカーって言っても、ちょっと覗き見してたくらいだからね!?」 「それ充分ストーカーだって!怖いって!」  母親がわざとからかうように言うと、父親は少しだけ体をずらして大竹に向き合った。 「先生、先生には何から何までお世話になりました。本来なら僕らが息子の様子に気づいてフォローしなければならなかったところなのに、それも全部先生にお任せしてしまって、恥ずかしい限りです。今回の田舎行きも、少しは先生に楽しんでもらいたかったのに、それもままならなかったみたいで……。来年はもっと楽しめる場所を企画しますね?」 「……いや、来年は受験本番ですから、俺なんかに構ってる場合じゃないと思います」  そりゃもちろん、気分転換に付き合うつもりはあるけどさ。   そうじゃなくて。  そうじゃなてく、何なんだ、このご両親は。真面目に親らしいことを言うのかと思ったのに、何考えてんだ……。何かこれでは、まるでご両親は俺と設楽を一緒にどこかに連れ出したがってるみたいじゃないか。  ……まさか?  いやいや。一瞬怖い考えになってしまって、慌てて大竹は首を振った。  ないないない。  それはない。  息子のフォローに回った教師と、その教師に懐いてる息子。息子はまだ色々と傷が癒えてないだろうから、お気に入りの先生と仲良く遊んで、早く傷を癒しなさいよ、と、そのくらいの考え……の筈。うんうん。そうそう。何か俺、この一週間でちょっと色々考えすぎて、頭煮えてるのかも……。  色々考えすぎて、ふと最初の話に戻る。  何でこんな話になってんだ?  それで田舎の話はどうなってんだ……?

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