67 / 69
おまけ3・設楽家にて-3
大竹の無表情が少し重たくなったことに気がついた設楽が、慌てたように話を元に戻す。
「それで、電話はどんなだった?ばあちゃんち大丈夫そう?」
「あぁ、それは大丈夫だよ。ほとんどが智一は大丈夫かって、心配してくれる電話だったし」
「そうそう。若いときの過ちは誰にでもあるから、あんまり智一を責めるなよって」
「あぁ…、それなら良かった」
ほっと息をついた2人に、「でもまぁ」とお母さんが顔色を少しだけ変えて言葉を継いだ。
「お義姉さんからはすごい勢いで『もう二度とうちの美智に智一くんを近づけないで!』な~んて電話が来たけどね」
「……あぁ……」
あの美智の勢いなら、遠山家から何らかの文句が来るのは想定内だ。
だが。
「ま、言われなくても姉さんのところになんか、こっちから近寄らないけどさ。も~、姉さんすっごい自己中な人でさ~。姉さん的に美智って自分の分身なモンだから、義兄さんと優は女2人に頭上がらなくてね。あんなのにうちの大事な智一を誰が近づけるかってんだよ」
笑顔でとんでもない事を話す父親に、大竹は遠山の告白を思い出して、胸が痛くなった。
だが、それは自分がここで口にすることではないと、大竹は曖昧な笑顔で聞き流す。
「とにかく先生、本当に智一がお世話になりました。これに懲りずに、これからもよろしくお願いしますね?」
「はい。今回のことは本当にすいませんでした」
もう一度謝ってお暇しようと腰を上げかけた大竹に、父親が笑顔で畳みかける。
「末永く、よろしくお願いしますね?」
「はい……はい?」
末永く?
聞き間違えか……?
大竹が慌てたように2人を見ると、2人は澄ました顔をして「あ、お布団敷くからお風呂どうぞ?」「智一、先生にトイレとか洗面所とか色々案内してあげて」などと当たり前のように言っている。
「い、いや!もう帰りますので!」
「そんな先生、他人行儀な」
「いや!いや、本当に帰りますので!!」
他人行儀?
やばい。
何か分からないけど、やばい。
早く帰らないと……!!
「父さん母さん!もう先生困ってるから、これ以上引き留めるなよ!ごめんね先生、明日補習の準備するんでしょ?」
「あ、あぁ……」
ほっとして大竹が立ち上がると、さすがに2人とも「残念!それじゃあ先生、またの機会に!」と言ってようやく立ち上がってくれた。
「先生、ごめんね。うちの両親、あんまり深い考え無しに言ってるんだと思うから、気にしないで」
「お、おう。それじゃあこれで失礼します」
「はい。先生、また♡」
にっこりと笑う両親の顔に、なんだか含みがあるような……?
落ち着かない気持ちで設楽の家を後にすると、大竹は車の中で1人、今のご両親は何だったんだろうかと頭をグルグルさせた。あまりにも自分の想定していた状況と違って、どう対応したらいいのか分からない。
ただ、一つ分かったことがある。
「設楽一族、怖ぇ……」
大竹はぶるりと体を震わせると、大きく溜息をつきましたとさ。
~終わり~
****************
おまけ、もう1つ続きます!
ともだちにシェアしよう!