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おまけ3・設楽家にて-3

 大竹の無表情が少し重たくなったことに気がついた設楽が、慌てたように話を元に戻す。 「それで、電話はどんなだった?ばあちゃんち大丈夫そう?」 「あぁ、それは大丈夫だよ。ほとんどが智一は大丈夫かって、心配してくれる電話だったし」 「そうそう。若いときの過ちは誰にでもあるから、あんまり智一を責めるなよって」 「あぁ…、それなら良かった」  ほっと息をついた2人に、「でもまぁ」とお母さんが顔色を少しだけ変えて言葉を継いだ。 「お義姉さんからはすごい勢いで『もう二度とうちの美智に智一くんを近づけないで!』な~んて電話が来たけどね」 「……あぁ……」  あの美智の勢いなら、遠山家から何らかの文句が来るのは想定内だ。  だが。 「ま、言われなくても姉さんのところになんか、こっちから近寄らないけどさ。も~、姉さんすっごい自己中な人でさ~。姉さん的に美智って自分の分身なモンだから、義兄さんと優は女2人に頭上がらなくてね。あんなのにうちの大事な智一を誰が近づけるかってんだよ」  笑顔でとんでもない事を話す父親に、大竹は遠山の告白を思い出して、胸が痛くなった。  だが、それは自分がここで口にすることではないと、大竹は曖昧な笑顔で聞き流す。 「とにかく先生、本当に智一がお世話になりました。これに懲りずに、これからもよろしくお願いしますね?」 「はい。今回のことは本当にすいませんでした」  もう一度謝ってお暇しようと腰を上げかけた大竹に、父親が笑顔で畳みかける。 「末永く、よろしくお願いしますね?」 「はい……はい?」  末永く?  聞き間違えか……?  大竹が慌てたように2人を見ると、2人は澄ました顔をして「あ、お布団敷くからお風呂どうぞ?」「智一、先生にトイレとか洗面所とか色々案内してあげて」などと当たり前のように言っている。 「い、いや!もう帰りますので!」 「そんな先生、他人行儀な」 「いや!いや、本当に帰りますので!!」  他人行儀?  やばい。  何か分からないけど、やばい。  早く帰らないと……!! 「父さん母さん!もう先生困ってるから、これ以上引き留めるなよ!ごめんね先生、明日補習の準備するんでしょ?」 「あ、あぁ……」  ほっとして大竹が立ち上がると、さすがに2人とも「残念!それじゃあ先生、またの機会に!」と言ってようやく立ち上がってくれた。 「先生、ごめんね。うちの両親、あんまり深い考え無しに言ってるんだと思うから、気にしないで」 「お、おう。それじゃあこれで失礼します」 「はい。先生、また♡」  にっこりと笑う両親の顔に、なんだか含みがあるような……?  落ち着かない気持ちで設楽の家を後にすると、大竹は車の中で1人、今のご両親は何だったんだろうかと頭をグルグルさせた。あまりにも自分の想定していた状況と違って、どう対応したらいいのか分からない。  ただ、一つ分かったことがある。 「設楽一族、怖ぇ……」  大竹はぶるりと体を震わせると、大きく溜息をつきましたとさ。   ~終わり~ **************** おまけ、もう1つ続きます!

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