1 / 63
第1話
片倉健人(かたくらけんと)はこの4月から地方にある小学校教諭になったばかりの青年だった。平たく言えば、小学校の先生で、彼が人生で初めて担当するクラスは新谷(あらや)小学校2年2組。生徒の数は昨今にしては多く30人の学級だった。
「今日の学活は学級代表と係を決めていきたいと思います」
学活……中学高校で言うところのホームルームの時間。片倉はそんな事を言うと、新品の白いチョークを右手で掴み、黒板へ『学級代表』という文字と10数個の係の名前を書いていく。名称は学校によって違うのかも知れないが、学級代表をまずは決めなければならない。
「最初に学級代表を2人、決めます。誰か、なって欲しい人を推薦……でも良いですが、できれば、自分からなりたいと立候補するのが良いですね」
小学2年生に成り立ての児童達に「推薦」や「立候補」と言って、通じるのかは分からない。だが、あまり子供扱いをすべきではないと思っている片倉は丁寧に言葉を尽くす。
片倉が「立候補」の意味を説明し終えると、小さな手が1つだけ上がった。
「はい、久川さん」
彼女の名前は久川灯英(ひさかわともえ)といった。小学2年生だという事を加味しても、小柄で、子猫のようにやや吊り上った大きな目と長い髪が印象的な可愛らしい女の子だった。
「それでは、1学期の学級代表は久川さんと国富(くにとみ)さんに決定します」
片倉が学級代表を決めようと言い出してから10分程が経ち、久川灯英が満票で、それに続いて、国富という男の子が次に多い票数を得ていた。ちなみに、男女を問わずに敬称が「さん」なのもこの学校によっては方針が違うのかも知れないが、この学校の方針に倣っての事だった。
「次にこの2人を中心にしてみんなで係を決めてもらいます。保健係は2名、体育係は……」
それから、片倉は時間はかかるが、児童達に係を決めさせた。それが終わると、プリントを配った。
「学級通信が1枚と家庭訪問の希望調査です。特に、家庭訪問の希望調査はお母さん、お父さんなどの都合もありますから今日、絶対に渡して、4月の15日までには先生に渡してください」
若干、低い高いと個人差もあるが、「はい」と子供特有の伸びのある声が教室中へ響き、学活の時間は終わりそうだった。
「はい。じゃあ、次の時間は体育なので、20分休みの間に体操服に着替えて、鉄棒のところへ集合してください」
片倉はガイダンス資料を忘れずにまとめると、次の時間の指示を出した。
ともだちにシェアしよう!