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第25話

「次の方、どうぞ」  月1でこの保護者相談も開いていることからこの日、保護者相談を希望したのは3人だけで、そのうちの2人は5~10分ずつ程で、終えることができた。  そして、最後の1人は久川だった。 「私で相談を希望した人は最後みたいなので、廊下に出ている椅子、パパっと入れちゃいますね」  と言うと、久川は2組の前の廊下に7つ程、並べていた椅子を持って、教室へ入ってくる。  片倉と比べると、どうしても、線の薄い男に見えるが、女性ではなく、男性なのだと片倉は思った。 「ありがとうございます。久川さん」 「いえいえ、それにしても、今日の授業は凄かったですね。2年生でアイスの原料や塩と氷を使って固まらせるなんて少しイメージしにくいかなと思っていたので」 「ええ」 「でも、そこは流石、片倉先生という感じで。上手くは言えませんが、子どもを子ども扱いしていないというか、変に誤魔化さないで、分かりやすい言葉を投げかけて、子ども自身で答えを探すように仕掛けていっているような気がしました」  保護者相談というのは建前で、久川は片倉に手を差し出す。どんな状況だったとしても、最悪、久川が去る際に片倉が紙を渡しさえすれば、片倉の意思が伝わるように紙に書くように記していた。 「さて、先生は何て書いてあるんでしょう……」  明るい声色で、久川は片倉から受け取った紙面に目を移す。  そこには片倉の気持ちが書かれていた。 『久川さんへ  昨日はありがとうございました。日にちは13日でも14日でも大丈夫です。メモに書かれていた場所はどこも素敵で、悩みました。私も港さんがいるところならどこでも良いと思います』  それは片倉が口では決して言えない言葉で、文字でやっと認めることができた思いだった。

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