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第7話
歩いていると、1人の老人が派手な着物を着た数人の男に囲まれていた。老人は、ボロをまとい、物乞いをなりわいとしているような感じだった。
「だからよぉ、この辺りで物乞いするなら、おりゃ達に銭払えって言ってんだろ」
「そうだ、今日こそ銭払って貰おうじゃねぇか」
「溜まってた分、耳を揃えて払いやがれ、ばか」
口々にそう言うと老人を足蹴にする。老人は小さな声で、
「そん・・・な・・・お足は、ない・・・ん…です。お見逃し・・・下さい」
苦しげに呻きながら、言っているのが聞こえてきた。加藤は足を速めようとしたが、片桐は傘を加藤に預け、足早に騒ぎの方に向かって行く。驚いた加藤も後を追った。
「このご老人に暴力を加えるなど、もっての他です。直ちに止めなさい」
大きな目にきっぱりとした光りを宿し、冷淡とも聞こえる口調で言い切った。
「お、こいつ、学生さんだぜ。いいトコのお坊ちゃまが喧嘩の仲裁かい。止めときな、怪我するぜ」
頭分だろう、貫禄のある男が明らかに揶揄を含んだ声で言った。
「喧嘩では、ありませんね。お年寄りを苛めているだけではありませんか。老人を敬うのは当たり前のことです。その道理も分からないのですか」
静かな口調で反論する。
「生意気な口きいてんじゃねぇ。野郎ども、お坊ちゃんに世間の怖さってものを教えてやんな」
その言葉に数人の男は老人の傍を離れ、片桐を囲んだ。
囲んだ男達は五人。明らかに喧嘩慣れしている感じだ。不穏な空気をまとっている。
いくら武道は学校で習っているからとはいえ、多勢に無勢だ。加藤が割って入ろうとした瞬間、男の1人が片桐に向かって殴りかかってきた。それを鮮やかに避け、手刀で首の辺りに強烈な一撃を見舞った。男が倒れた瞬間、「おめぇ」と男達が一斉に血相を変える。
片桐は、一番近くの男のみぞおちに握った手で打ち昏倒させた。しなやかな動きで身体の向きを変えると、次の男に柔道の一本払いをかけた。次の瞬間には俊敏な動作で隣の男の方を向き、手をひるがえして首の急所を狙う。その動きに頭と思しき男は「覚えてろっ!」と逃げる時の常套句を言い残し走り去った。倒れていない男たちも後に続く。
加藤が加勢に入る余地のない動きだった。息も乱さぬまま、老人の方に近づき、
「大丈夫ですか」と屈みこみながら優しげに微笑んだ。その笑顔に何故か心臓が高鳴った。
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