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第8話
「有難うございます」
老人は手を合わせて感謝の意を表した。
「どう致しまして・・・。これ、少しですけど、何かの足しにして下さい」
革の財布を出し幾許かの紙幣を握らせた。「裸で申し訳ないのですが」と言って。
加藤はその様子を内心呆然としながらも顔には出さずにただ、眺めていた。無理やり紙幣を老人に握らせた後、何事もなかったかのように加藤の方を向き、待たせて済まないと言った。
加藤は色々なことに混乱していたが、ようやく片桐の方へ近づき、傘を差しかけた。
「片桐は武道が上手だな・・・」
と一番どうでもいいようなことを言った。
「ああ、先祖が武士だからあれくらいの護身術は習っているし、学校でもするだろう。加藤だって出来るだろ」
涼しげな顔で言った。
「ああ、それは出来るが、実戦となるといささか自信はない。加勢をしようとしたが、隙が全く見出せなかった」
「隙を読めるくらいなら加藤もたいした腕前だってことだ」
そう言って微笑んだ。その微笑がとても綺麗に思えた。
「相手が刃物でも持っていたらどうするつもりだった。まぁ、廃刀令で剣は禁止されているが」
繊細な片桐の顔に刃物傷がついてしまっては、勿体ないと、ふと思った。
「それはオレも思ったが、持っていたらあのご老人を脅していた時に既に取り出していただろうし、男達の格好を見ても、持ってないと確信していた」
「ああ、あいつらの着物はこの寒さでも浴衣みたいな単だったからな」
「そうそう。隠すとしたら帯しかない。近づいた時に全ての帯は確認した」
何でもないことのように言う。
「それより、片桐、お前は何故あんなむさ苦しい老人を助けた?」
それが一番の謎だった。
「お前がこんな正義漢だったとは思わなかった」
そう言葉を続けた。
「そういう話ではない…ただ…」
唇を噛んで言葉を探しているようだった。
「ただ?」
心の底から話を聞いてみたく思ってしまう。何だか深い理由がありそうで、そしてそれが妙に気になった。
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