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第51話(第2章)

「俺も、家の事では散々悩んだ。それでもお前が欲しかった。お前のためなら家を捨てる覚悟で居た。勿論今も、だ」  握った手の力が強くなった。 「後悔は、本当にしないと、誓えるか」  瞳に強い光を込めて片桐が言った。 「誓える」  強い口調で断言した。 「それなら、いい。しかし、オレのせいでお前が不幸になるのかと思うと今でも気が狂いそうだ」 「いや、お前がここに居ることこそが俺の幸福だ」  そう言って抱き締めた。 「お前、だからあのように英語のレッスンを熱心に受けていたのか?」 「英語?」 「三條の英語の家庭教師はお前と同じ先生だ。俺は違う先生にレッスンを受けていたが、その先生が帰国する事になり、お前と同じ先生に習いたくなって三條に紹介して貰った。その先生がお前の事を褒めていた」 「そうなのか…それは知らなかった。欧米に行く計画は無いが、出来れば英国に住みたいと、まあ、夢の話のようなものだが…それで困らないように勉強はしている」  その時、寝室からは少し遠く聞こえたが、片桐を呼ぶ女性の声がした。耳を澄ませた。 「お兄様、お夕食の時間まで一時間ですわ。お友達も召し上がっていらっしゃるのかしら?」  色々と有りすぎて、時間の感覚が無かった。もうそんな時間なのか…と思った。屋敷に帰るべきだが、片桐と過ごせる時間は、出来るだけ長い方が良い。 「夕食を共にしても構わないだろうか」 「大丈夫なのか」 「ああ、何とかする」 「オレも晃彦と一緒に居たい」  そう呟くと、大きな声で、「一緒に食べていくそうだ。用意を頼む」と言った。  取り合えず、服を着ようと思って、握っていた手を離した。両手は粘着質の分泌液ですっかり濡れそぼっている事に今更ながら気付いた。左手の方はまだましだったが。 「浴室はどの扉だ」  彼の目が自分に向けられる。晃彦の掌の様子を見て、頬を赤らめたが、案内をしようとして、身を起こした。その瞬間、辛そうに眉間に皺を寄せた。 「矢張り酷くした…のだな。お前が辛くないようにとは心がけていたのだが」 「これくらい、大丈夫だ」  片桐の気丈さは良く分かっていた。強い力で、しかし片桐の傷を悪化させないように配慮しながらうつ伏せにさせた。  そっと、自分を受け入れていた場所を開く。少し出血がある。  眉を顰め、慎重な動きで中指をそっと入れた。 「痛い所に当ったら、言うのだぞ」  片桐は枕に顔を埋めていた。流石に恥ずかしいのだろう。 「多分、そこだと」  枕越しに告げた。指の第一関節よりも先だった。これなら薬を塗布する事が出来そうだった。そう思い指を抜き出すと、片桐の血液と共に自分の欲情の証が付いていた。白と赤…祝儀や結婚式で用いられる色だ。片桐も枕から顔を離してこちらを見ている。

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