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第53話(第2章)

 廊下に出ると、片桐伯爵家の家格に相応しい使用人達の数が居た。 もう迂闊な話は出来ない。皆、嫡男である彼とその客人である自分に丁寧な挨拶をする。勿論華子嬢にも。  華子は薄緑色のリボンで令嬢らしい髪型を作っていた。先導するように先頭を優雅に歩く。自然に片桐と自分は肩を並べて歩く事になった。ふっと、片桐がよろめいた。 「大丈夫か」  自分が無理をさせたせいだと思い慌てて彼の身体を抱き留めた。 「ああ、すまない。もう大丈夫だ、晃彦」  心配そうに見守っていた華子は、思慮深そうな笑顔を向けた。 「三條様、お名前は晃彦様と仰るのですのね。そちらで御呼びして構わないでしょうかしら」  片桐家の使用人は、加藤の苗字は知っていても名前までは知らないだろう。そういった配慮だろうか。 「ええ、出来ればそちらで御呼び下さい。光栄です」 「その方がわたくしも、お親しくなれた気が致しますもの。それに家では三條様のお名前を存じ上げている使用人は居りません。父母も生憎不在ですし、わたくしが女主人として今日のお料理は取り仕切りますわ、宜しくって、お兄様」  意味深に言った。矢張り彼女なりの気遣いだった。 「華子がそう言うのなら構わない。」  本来は、嫡男である片桐が客の事も取り仕切る。席順などを決めるのも彼の役目だ。  華子嬢は深窓の令嬢だ。具体的な事は想像も出来ないだろうが、兄の不例は察したらしい。 「こちらが夕食用のお部屋ですの」  そう言って導かれた部屋は自分の屋敷ほどの大きさではなかったが、十人掛けのテェブルに三人用の食事が用意されていた。 「わたくしが、今夜は主人の席に座りますわ。お兄様は御学友の三條様と御並びになって下さいませ。お兄様は少し御具合がお悪いので、お席は近づけた方が宜しいわね」  鈴を転がしたような声で使用人達に命じる。彼らは華子の命令通りに椅子や料理の皿を動かした。  食事が始まると、片桐は黙って食事を摂る。椅子が近いので時々彼の肘が当った。不快ではなく、むしろその熱を感じられる事が嬉しかった。片桐も当った肘をしばらくは動かさない。 「今日は三條様がご一緒なので、食事がより一層楽しいですわ。いつもは父上様と母上様とお兄様との四人でお食事ですもの。お兄様はお友達をお連れになった事もございませんし。とても残念に思っておりましたわ。わたくしは賑やかな事が大好きですもの」 「しかし、片桐君は学校で親しくしている友達がいますよ。黒田君などは招かないのですか?」

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