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第54話(第二章)

「ええ、初めてですわ。この屋敷に兄様が御呼びになられたのは晃彦様が初めてですのよ。仲が宜しいのね、お兄様は、わたくしには良くお話しをして下さいますが、余りご自分のお心の中の事は仰いません。ご自分でお悩みはお1人で抱え込んでしまう方ですの。これからは、晃彦様をお頼りになされば宜しいわ。わたくしも嬉しいです」  そっと彼の横顔を窺うとほのかに頬を染めていた。  彼女の心遣いに感謝した。 「華子様は、賑やかな事がお好きですか。それでは、三條家では頻繁に園遊会を開催します。それに御呼び致しましょうか」  華子の笑顔が輝いた。 「是非お願い致しますわ。お兄様もご一緒に招待に預かれれば光栄ですわ、ねえ、お兄様」  片桐が曖昧に頷いた。  三條邸では頻繁に園遊会が開かれている。三條も普段はおっとりしているが、父母に対しては押しが強い。三條の屋敷での園遊会なら、自分と片桐と華子が出席しても問題はないだろうと思った。後は三條に頼むだけだが、彼はきっと承諾してくれるだろうとの確信が有った。そう思っての発言だった。  食後の珈琲が出された。マナァではこれを機会に帰宅しなくてはならない。別れを惜しむ気持ちが残り時間と共に増してきた。片桐が静かに口を開く。 「晃彦、幾何の宿題で分からない所がある。食後に教えてくれないか。晃彦の答えとオレの答えが合っているかを確かめたい」 「まあ、晃彦様も明晰でいらっしゃるのね。わたくしなど、学業は苦手ですもの。せいぜいが御本を読むのが楽しいくらいですわ。早くお兄様に教えてあげて遊ばして」  そう言って退出を促してくれた。  彼女は、夕食の最中も口数の少ない片桐に代わってゲストである自分をもてなしてくれた。付いて来ようとする使用人は居たが、華子は「わたくしの用があります。皆、残りなさい」と言ってくれた。  片桐の部屋に入った。片桐は辺りに人気が無い事を確かめて扉を閉めた。  彼の部屋の様子を眺めていた。先程入った時は見る余裕など無かった。片桐の存在に魅了されていたから。  彼らしく落ち着いて几帳面な雰囲気のする部屋だった。装飾画も掛かっていない。本棚には英語の本が目立つ。 「座れよ。」  そう言って西洋椅子を指差した。片桐も卓を挟んで座った。 「大丈夫なのか。オレや華子を加藤家の園遊会に招待出来るわけがないだろう」

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