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第132話(第5章)

 一瞬、何の事かと思ったが、皿の下に忍ばせた紙幣の事を言って居るのだと思いついた。 「ほんの気持ち程度なので、心置きなく使って呉れれば有り難い。そして、これをいつものように」  手紙を差し出した。いつものように受け取る彼女に、頼みがあるのだが…と切り出した。 「はい、何でございましょう」 「実は片桐君の事が心配なので、自分の目で確かめたい」 「左様で御座いますか」  シズさんは静かに頷いた。 「俺が屋敷を抜け出した場合、家族に露見してはまずい。この部屋の監視はどうなっているか、シズさんが知っている限りで良いので教えて欲しい」  彼女は考えを纏めるかのように少しの時間が経ってから冷静に話し出す。 「左様で御座いますね。特に監視はされていないと存じます。お庭にも書生などが見張っている様子は御座いません。  私が寝台の用意をして下がってからはどなたもこのお部屋には近付きません。晃彦様は表向きご病気とされておりますので、近付く人間は居りません。  今、御屋敷ではご主人様が宮城に参られる準備で大忙しの様ですので…  前回の様に予想外にもマサさんが居残ると言った話も聞いて居りません。マサさんも新しい衣装を準備しています。それは確かめたので本当らしく思えます。  ですから、伯爵夫妻が宮城に参られる日が適当なのでは御座いませんか」  冷静沈着な彼女の言葉を聞いて、決意した。やはり、使用人には使用人しか分からない事も有る。特にシズさんは前回の騒動の事を自分の責任の様に感じて居る節が有る。その為にあまり縁の無い使用人まで調べて居てくれたのだろう。第一、彼女は他の使用人とは出自が違う。 「前回の事は、全ては俺の責任だ。シズさんのせいでは無い。  今回は、夕食もシズさんが食べて呉れないか。一刻も早く片桐家に行ってみたい。   そしていつもの様に寝台の用意をして、他の使用人が近付かない様にして欲しい」 「承りました。今回は失敗の無いように心して務めます。」  彼女も緊張した面持ちで断言した。冷静で賢明な彼女の事だ。信頼は出来る。  華子嬢への手紙に「両親が宮城に参る日にそちらの屋敷に忍んで行く」旨を書き添えた。ただ、片桐には内緒にしてもらうように…との事も。  シズさんに手紙を託し、彼女が出て行ってからも、片桐の事を考え続けた。  今回は絶対に失敗しては成らない。  そう思うと、色々な不測の事態に対応すべく、必死に考えた。マサを筆頭に両親に忠誠を誓う人間の動向を自分も考慮に入れ、シズさんの協力も欠かせないと思った。

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