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第189話(第7章)

 三條は快活に二人に挨拶した。  三條の婚約者は片桐の妹の華子嬢なので、こちらの屋敷には良く訪問して居るようだった。片桐も屈託無げに喋って居る。 「久しぶりだな」   後ろめたさを感じながら挨拶をした。 「ああ、本当に久しぶりだ。まぁ、お互い、自分の自由恋愛のせいで忙しかった面は否定出来ないが」   気の留めている風も無く、三條は返す。言外に「お前は忙しかったのだから気にしなくて良い」という顔つきをしていた。 「鮎川公爵に頼んでくれたのは本当なのか」  お茶と御菓子の用意をしてから女中が下がると早速本題を切り出した。 「ああ、二人のことが看過出来なくて、鮎川公爵に相談はしていた。あの方は、詳しくは存じ上げないが、御家庭の事情とかで……暫くは市民に混じって生活されていたし、その上、お前と片桐の仲を御知りになって驚くような方ではないと判断したが……悪い方法だっただろうか」  いつも快活な彼にしては、最後の方は呟く声になった。気にしているのだろう。 「いや、オレはそう思わない。本当の関係を知らないとこの相談事は出来ないだろうから。むしろ有り難く思って居る」  自分が考えていた事を先に言われてしまい、微苦笑を浮かべた。 「片桐の言う通りだ。本当に有り難いと言う言葉では表現出来ない。忝く思う」  そう言って座って居た椅子から立ち上がり深々とお辞儀をした。慌てて片桐も立ち上がり、自分に倣った。 「鮎川公爵から出掛けに電話が有った。多分説得出来るので安心しろとのことだった」  思わず二人して安堵の吐息を漏らした。  その様子が可笑しかったのだろうか、三條は笑った。 「本当に気持ちが通じ合って居ないととてもではないが、こんなに息の合った行動は取れないな」  片桐は頬を紅色にして居る。自分も口元が弛んでいる自覚は有った。 「それはそうと、お前たちの留学祝いを学校の友達や今まで世話になった人とする気はないか」 「送別会か……良いのだろうか」 「学校には許可は取って有る。招待したい方を書き出してくれ。一応、こちらで把握している分は名簿を作成して有るが……。これがその名簿。後で漏れが無いか確認してくれ。ちなみに、父母のツテで、ほとんど完成した帝国ホテルの宴会場でする事にした」  ノオトを渡してくれる。これに招待客の名前が書いてあるのだろう。  これだけ自分達の事を気遣って居てくれたのかと思うと御礼の言葉が出て来ない。彼も、華子嬢との恋愛に忙しかった筈なのに、ここまでの気遣いをしてくれるとは。  絶句しているとその様子を見た三條は一旦、言葉を切り悪戯っぽく付け加えた。

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