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第222話(本編最終回)

 二日後、ホテルが手配した自動車に乗って横浜港に向かった。二人とも睡眠不足だったので、車内では片桐が自分の肩に凭れてうたた寝をして居る。  横浜港に着くと、片桐をそっと起こし、乗船予定の船に近付く。予想以上に大きな船だった。港には家族は勿論の事、恩師や友人、両家の親戚や縁者が集まって居た。  挨拶する相手が違うので自然と別れる。まずは両親に挨拶をと思い、両親に別れの言葉を述べた。母は涙ぐみ、自分を人気の無い所にと誘った。 「晃彦さんが心行くまで学んで帰国する事を一日千秋の思いで待って居ます。それと、これは餞別ですわ」  そう言って、革袋を取り出した。 「開けて良いでしょうか」  頷くのを待って開けて見た。そこには最低10個のダイアモンドやルビーの首飾りなどが入って居た。値段が張る物なのは見たら分かる。 「こんなに……」  驚いて母を見る。 「今までのお詫びと、英吉利で手元如意に成った時には現金に変えて下さい」  自分も未踏の国だ。現金が無くなるかも知れないので有り難く戴いた。最悪の事態に成らなければこの宝石類は母に返そうと思った。  その後は、挨拶を受けるだけにして、出港の時間を待った。  ふと、片桐の方を見ると、片桐伯爵や夫人、華子嬢に囲まれて居る。勿論柳原嬢もいらっしゃった。片桐伯爵は使用人に支えられていたが、それ以外はお元気そうだった。  その背後には親戚や旧家臣と思しき人達が挨拶の出番を待って居る。自分も似た様な状況だったが。そこに自分の母も居た。意外にも片桐夫人と親密そうに話して居るのが嬉しかった。  なるべく1人と話しをしようとしていたが、乗船時間が迫っているという合図の汽笛が鳴った。あたかも自分達の乗船を寿いでいるかの様だった。 片桐の傍に行き囁いた。 「そろそろ行くか」 「ああ」  そう言ってから、「お見送り有り難う御座います。有意義な留学にすべく、頑張って参ります。港まで来て戴いて有り難う御座います」  大声で言った。  片桐も1人1人に頭を下げている。  二人の前途を祝福するかの様に空には雲ひとつ無い晴天だった。 「では、乗船しよう」 「ああ、留学は楽しみな様な、不安な様な気がする。ただ晃彦とずっと一緒に居られるのがとても幸せだ」  片桐は一点の曇りもない、今日の空の様な微笑を浮かべた。                                     本編 了

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