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act.0 失うことは分かっていたとしても
「オレ、お前のこと好きやねん」
「なんだよ、言いたいことってそんなことか? オレだって好きだよ」
何言ってんだよと笑った渉 に、ちゃう、と声を絞り出す。
「そういうのと、違う」
ぐい、と胸ぐらを掴んで引き寄せた渉の顔に自分の顔を近付けて、未だにキョトンとしたままの渉に呻くように言葉を投げる。
「キス、……してまうぞ、このまま」
「ぇ……?」
「そういう意味や」
「っ、だ、って、……オレら、男同士だし……っ」
あからさまに狼狽える渉に少しだけ傷付きながらも、やけくそな気分で笑い返した。
「そぉや、男同士や」
「だったら……ッ」
「そんなん、オレが一番よぉ分かっとぉわ。せやけど、しゃあないやんけ。好きなもんは好きやねんから」
「い、み……分かんね」
掠れた声で呟いて目を逸らした渉が、オレの手から離れようと身を捩る。
「オレは……オレは、友達だと思ってたよ、お前のこと」
悔しそうに呟いた渉が、オレを涙目でキッと睨む。
「お前は違うかったってことか」
「…………友達や。そうや、友達や。知っとるわ、そんなもん」
「だったらなんで!」
「しゃあないやろ、好きになってもぉたんやから」
潤んだ目で睨み付けられて、勘違いするなよと自分に言い聞かせながら首を振る。
「オレやってずっと思てたわ。……お前は友達やって。……こんな好き、迷惑になるだけやって……ずっと思てたわ。せやけど、消せへんかったんや」
情けなく涙を噛みながら絞り出した言葉を、渉は顔を逸らしたままで聞いている。その唇は、引き結ばれたままだ。
──あぁ、だから。
この恋に望みなんてないと分かっていたくせに、どうして告げてしまったのか。黙ってさえいれば、少なくとも友達ではいられたというのに。
全てを失ってまで、告げる意味はあったのだろうか。
オレを見ない渉は相変わらずオレの手から逃げようと身を捩っていて、パッと手を離したら渉はよろめきながらもオレから距離を取るように後退った。
「……悪ィけどさ……もう二度と、オレに近づくなよ」
「……」
「まじで、……きもちわりぃ」
「っ……」
吐き捨てる渉の顔は俯いたままでその表情は読めないけれど、投げ捨てられた声の強ばり方がその忌々しさを如実に現していて、傷付くなんて生半可な言葉では片付けられない痛みを隠して首を縦に振った。
「…………わかった」
その声を、渉は聞いたのだろうか。
ふぃ、と。
回れ右して駆けていく後ろ姿を悔しく切なく見つめながら、堪えきれなかった涙がその姿に霞をかける。
震える指先で目元を拭いて、ふっと苦笑いに似た溜め息を1つ吐いたら、失ったものの大きさは考えないようにして自分も回れ右。
自分の考えの甘さを責め立てながら、家路についた。
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