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【約束のつづき】きつつ輝

「ダメだね」 なっ…… 目の前から色がなくなった。 モノクロームの世界で言葉が消えていく。 意識が青ざめていく。 「君はダメだ」 声さえ出せない。 握った拳が白く震えている。 上山 由 (お前は……) トップモデルの俺にフラッシュもたかず、ダメ出しだとォォォ~!! ライトの下で黒髪が揺れた。 黒真珠の瞳は撮影機材が勿体ないとでも呟いているかのようだ。 「君、幾つになった」 「……21歳」 「ふぅん」 おい、なんだよ。その態度。 貴様は俺の人気を知らないのか!この連日真っ黒に埋まったスケジュールを。 トップモデルとして君臨する俺だぞ。 その俺が、自ら年齢を教えてやったというのに。 まぁ、メンズ雑誌のプロフィール欄見たら、誰でも分かる情報だけどな。 俺の載らない雑誌はない。 「君、なにがダメなのか知りたくはないか」 カメラマンの戯れ言が。 俺は、トップモデ…… 「君は日本のトップモデル」 私は…… 「世界の頂点に立つカメラマンだ」 上山は、その名前自体が『KAMIYAMA』として、世界中に名を馳せるブランドとなっている。 彼の市場は、世界 世界が注目するカメラマンだ。 「教えてあげるよ、おいで」 俺だけにしか聞こえない声で。 そう囁かれた瞬間。手を引っ張られて、無理矢理、引き込まれる。 厚くて、逞しい…… 上山の胸の中へ 「いけないね。熱中症かな。スタジオは暑いからね」 顔も、体も。胸元から動けない。 頑強な両腕に抱きしめられて、ぎゅっと押しつけられている。 「内海君が体調不良だ。私の控え室で休ませる。暫く休憩だ」 「フグ、ヌヌヌヌヌゥぅぅ~」 声を上げる事すらままならず。 俺は、スタジオの外へ連れ出されてしまった。 「暴れるんじゃないよ。部屋まで我慢できないのか」 ドアを片手でこじ開けて、俺の体が放り込まれる。 こら、トップモデルはもっと丁寧に扱え! って…… すごい部屋だな。 さすがは世界的カメラマン ソファー、ふかふかだ。 ありがとう、ふかふかソファー 俺を受け止めてくれて。お前のお蔭で俺の体、傷一つつかずに無事だ。 って~~ (雨?) なわけあるか! ここは控え室。屋内だ。無論、天井がある。 KAMIYAMAだぞ! 世界のホープ。世界をまたにかける貴公子の控え室が雨漏りする筈ない。 ビシャビシャビシャー (なのに、なんで?部屋の中で雨が降ってるんだァァー?) 「君が熱中症だからだよ」 しとしと前髪から雫が滴った。 ソファーがずぶ濡れ。 俺もずぶ濡れだァー 「なんで、こんなッ」 言葉の終わりを待たずに、空のペットボトルが上山の手から滑り落ちた。 「体を冷やした方がいい」 「それはッ」 口実だろう。熱中症は。 撮影を休んで、俺を連れ込むためたの。 「濡れたね。脱ぐか」 「ワっ」 帯を結んだまま、たちまち袖を抜かれる。 びしょびしょになった撮影用の浴衣が、上半身から取り払われる。 「なにするッ」 世界が反転した。 ふかふかのソファーに身を沈めた俺は、天井を仰いでいる。 俺と、天井の間に上山がいる。 (俺……押し倒されたのか?) 「君は気高くあるべきだ。トップモデルなのだろう」 足を取られて、甲に口づけを落とされた。 まるで…… 足下に跪く臣下のように。 さらりと揺れた黒髪から、黒真珠の双玉が覗いた。 射貫かれた心音が跳ねる。 逆らえない。 臣従させられているのは、俺の方だ。 「違うな。虜にしたのは君だ。……内海 征」 黒真珠の双玉が覆い被さる。 胸元にチクリと刺した赤い痣は、彼の唇の触れた証。 「それも不正解だ。君が私のものになった証だよ」 唇がまた一枚、胸に花びらを落とした。 「なぜ、こんなっ」 逆らえばいい。 逃げ出せばいい。 声を上げればいい。 なのに…… 魅入られた心臓だけが悲鳴を上げている。 ドクン、ドクンッ! 早鐘を打ち鳴らしている。 とっくに見透かされていたんだ。 俺の気持ちは…… 「違う。気づかせてあげたんだ。君自身のほんとうの気持ちに」 俺は、お前が好き。 お前に写真を撮ってもらいたくて、俺はモデルになった。 お前が好き。 お前の撮る写真が好きで…… 「小さい頃、一緒に遊んだね。あの頃はまだカメラマンの真似事だったけど。お前の写真を撮ったら、お前は笑ってくれた」 だから…… 「もっとお前を笑わせたくて、お前を喜ばせたくて。プロのカメラマンを目指したんだ。誰よりも、お前を綺麗に撮りたくて」 「俺も」 俺は…… 上山……うぅん、由。お前が遠くに行ってしまいそうで。 世界という遠くに行ってしまったから。 追いかけたんだ。 モデルになって。 そうして、お前に撮ってほしくて。 「ただいま、征」 「お帰り、由」 俺達はずっと…… 恋してて。 「これからも恋し続けていく」 これは、その証だ。 赤い花を胸に刻まれる。 「21歳だろ。もっと色気つけないとな」 白い肌に散らされる赤い痕 痛くて、切なくて、愛しい。 「最高の写真を撮ってやる」 散っていく赤い痕は…… 「浴衣で隠すんだよ」 撮影の間も 「お前は俺を想像する」 「ゆう……」 涙目で見上げたけれど。 大好きな従兄弟は微笑むだけだ。 「21歳らしからぬ色気だな」 チュッ 「そんな顔は、俺以外に見せるなよ」

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