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【どこでキスしよう?】なかじまこはな

花火大会を毎年楽しみにしていた。 僕の住む所では1番大きな花火大会で小さい頃から行っていたのに突然の中止。 台風が来るから中止とかではなくて去年新聞やニュースになる事件が起こり未来永劫行われないのだ。 「花火大会がぁぁ」 僕は机に伏せて凹んでいる。 「なに大吾、そんなん花火大会好きだったん?」 僕の前の席の平良が聞いてくる。 コイツとは小学校から一緒。だから花火大会も一緒に行ったりしていた。 「だって毎年楽しみにしてたのに」 「花火大会なんてあちこちでやってるだろ?」 「そうだけど」 そうだけど、平良の言う通りあちこちでやってるけどでも……行きたいのには理由がある。 「平良のばーか!」 「はあ?何突然」 「別にいい!図書室に本返してくる」 僕は立ち上がって借りた本を手に教室を出る。後ろから平良が何か叫んでいたけど無視。 ちくしょーあいつ、絶対に覚えてない。 去年の花火大会で来年も一緒に来ようって言ったくせに。そして、その時は浴衣をお揃いで着ようって。 確かに些細な約束だったかも知れない。 でも、あの花火大会は……。初めて平良に出会った大切な思い出。 小さい時に親と花火大会に行ってはしゃぎすぎて案の定迷子になった。 泣きながら歩いていると「ねえ、なんで泣いてるの?」と同じ年の男の子に声をかけられた。それが平良。 平良はおじいさんが屋台をやっていて、それについて来ていた。おじいさんのとこに連れて行ってくれて、迷子だと伝えてくれたから無事に親に会えた。親が迎えに来るまでおじいさんが焼いた箸巻きを食べた。 お好み焼きを箸で巻く感じの食べ物で初めて食べた僕はその美味しさに驚いて涙なんて吹き飛んだ。 「な、じいちゃんの作るの美味しいやろ?」 ニコッと笑った平良は可愛くて印象に残った。それから、僕は次の花火大会も平良とおじいさんを探した。 1年に1回しか会えなくて、でもそれが楽しみで花火大会が好きになった。 そして、高校に入ると平良が居た。ビックリした。小学校と中学校は区域が別で会う事もなかったから。 それからもっと仲良くなって、まあ、同級生だから仲良くなるけどさ。 花火大会……楽しみだったのに。 ◆◆◆ 「大吾!」 放課後、待ち伏せされた。 「な、なに?」 「お前なんだよ、理由わかんないんだけど?」 少し怒っているように見える。 「なにが?」 「午後からずっと無視してさ」 「無視してないし」 僕は俯く。 「あーもう!こい!」 平良は僕の手を掴むと歩き出す。 「なに?」 引っ張る手がイラついているのが伝わってくる。そうだよね、僕が勝手に怒っているだけ。平良には関係ない。 平良が歩く先にワゴンが停めてあってクラクションが鳴った。 「よう!」 運転席から平良のおじいさんが顔を出す。 「え!なんで?」 僕は驚く。 そして、おじいさんの近くにいくと「一年ぶりだな、少し背が伸びたか?」と僕を見て微笑む。 「はい」 と返事をすると「2人とも乗って」と言われた。 「えっ?」 キョトンとすると「今から屋台設置にいくんだ、お前のも手伝え」と平良に言われた。 「バイト代も少しなら出せるから、いつもは平良が手伝ってくれるから助かる」 おじいさんもニコニコとしている。 「はい……」 僕はそのままついていった。 会場は小さい所だったけれど、屋台の設置は初めてみたから少しワクワクした。 おじいさんに教わりながら僕も手伝った。 「小さいけど、花火もあがるぞ」 おじいさんに言われて「花火……」と平良をみた。 「そういえばチビの頃迷子になって平良が連れてきたよな」 おじいさんが懐かしそうに言う。 「覚えてたんですか」 少し恥ずかしかった。 「お前、明日も手伝えよ?明日土曜だから」 「うん」 平良に言われて頷く。 小さい花火大会ってきた事なかった。あちこちでやっているのは知っていたけれど、タイミングが合わないのと大きな花火大会はテレビでCMするからいつあるかわかるけど、小さい花火大会は場所に行ってや日にちが分からない。 「平良ってあちこちの花火大会いってるの?」 「うん」 「いいなぁ」 花火が見れるからじゃなくて、平良と一緒にその時を過ごせる誰かに対して。 羨ましいと思う。 ◆◆◆ 土曜は人が結構多かった。だから店も繁盛して忙しかった。ザワつくなか「お前らも花火みてこい」とおじいさんが小遣いというかバイト代をくれた。 「忙しいじゃん」 そう、いう僕に平良は「いいんだって、花火始まれば暇になる。みんな花火みるから」と言って僕をワゴンに引っ張って行った。確かに花火始まればみんな上を見上げる。 「ほら、浴衣」 平良が袋を手渡してきた。 「浴衣……」 「車の中で着替えるぞ」 「えっ?僕は浴衣着れない」 「いいよ、俺できるから」 平良は器用に自分の浴衣を着て、次に僕にも着せてくれた。 「お揃いな」 ニコッと笑う平良。 「覚えてたんだ」 僕は嬉しくなった。 「当たり前」 平良は僕の手を掴み歩く。 「で?なんで拗ねてたわけ?」 「うっ……」 やはり聞いてきたか。 「約束……覚えてないのかな?って」 怒られるのを覚悟で言う。 「やっぱりか」 ニヤリと笑う平良。 「だって、あの花火大会は」 「初めて会った場所だから?」 言いたいことを先に言われて僕は黙ってしまった。 「俺さ、頭悪いんよ」 「はい?」 突然なに?と思った。 「けど、お前が今通ってる高校受検するって言うから頑張ったんだぞ?」 「えっ?……ええ!!」 驚いて平良をみた。 「俺だって毎年楽しみだったんだお前に会うの」 そう言われて恥ずかしくなって俯いた。 「顔上げろ、浴衣見たかったんだから」 そう言われても顔を上げれない。恥ずかしいのと嬉しいので。 平良は僕を引っ張り境内の奥へ。 「ちゃんと顔を見せないとチューするぞ!」 その言葉に驚いて顔を上げるとチュッと軽く唇がふれた。 驚いて平良を見ると「俺の気のせいなら聞き流せ、お前も俺を好き……だよな?」と真っ直ぐな瞳で言われた。 確認ですか?っていうかバレてたのか僕の気持ち。 声に出せずに頷くと「良かった」と笑った。 そして、真顔で「キスしていい?」と聞かれた。 またまた頷くとキスされた。 すごく恥ずかしくて、嬉しいキス。 「平良……」 「うん?」 「すき……です」 小さい頃からの想いが一気に溢れて告白してしまった。 平良は「俺も!」と言って僕を抱き締めてきた。その後、たくさんキスをした長い月日を求めるように……。 で、花火が終わっていた。 少し乱れた浴衣を平良が直してくれた。 そして、耳元で「浴衣を着れるようになったのはお前の浴衣をこうやって脱がす為」と言われた。 「はあ?」 一気に顔が赤くなる。 「いいじゃん、頑張ったんだぜ俺!」 そう言って笑う平良が物凄く好き!と思ってしまった僕は変態かも知れない。

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