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第1話

 新年の計は元旦にありと言うことで、ダラダラした生活態度を改めるべく、元日の午後から初詣に向かったオレは偉いと思う。電車に乗って向かったのはここらでは有名な神社で、かなりの人でごった返していた。なかなか進まない列をボーっとしながら待ち、やっと来た順番に賽銭を投げ一年の安心を祈る。欲張りたいとは思わない。今あるささやかな幸せが続けばそれで良いと思うから。  去年と一昨年の初詣は独りじゃなかった。今年も……と思ったが、残念ながら今年は彼氏が実家に帰省した為ボッチの初詣だ。たまには帰って来いと親に言われたなら仕方ない。親孝行も必要だからと、オレは笑顔で送り出した。  オレこと向井(リン)は後天的ゲイだ。だから付き合ってるヤツは今は男、彼氏である。ヤツとは大学の同期で、最初は親しい友人の一人だった。オレの彼氏である和志は友人が多く、ルックスが良いことからかなりモテていたと思う。と言うか、事実モテていた。少々女にだらしなく二股三股は当たり前で、女同士が和志を取り合って修羅場を演じるなんて場面も何度も目にしたこともある。そんな最低男だけど何故か憎めず、男も女もヤツから離れて行くことは無かった。明るいオレ様気質も良かったのだろう。  和志もノーマルだったらしいが、何度も女同士の修羅場を見て嫌気がさしたらしい。自業自得だとは思ったけどな。当分女はうんざりだとオレとよくつるむようになって、それが続いていつの間にか……ってところだろうか。お互い何となく惹かれ合って、和志の告白を機に恋人同士の関係になった。当たり前だけど浮気はNG。その場合は関係を解消するって条件付きだ。オレは誰かと恋人をシェアする程心は広くない。  なんだかんだ言って和志との付き合いは穏やかだったと思う。お互い大学を卒業して社会人になったのも関係してるのだろう。入社して覚えなきゃいけないことが山積みで、会社は違うもののお互い励まし合って頑張っていたと思う。特に和志の会社は忙しく、入社当初はヘトヘトになってることも多かった。最近は少しずつ余裕が出て、穏やかな付き合いが続いていると思っている。 「さむっ」  人が多いとは言え、長時間並んでいたら身体が冷えてしまった。こんな日くらいは甘酒でも飲んで暖まろうか……と出店の方へ足を向けたとき、オレの目はここにいないハズの人をキャッチした。こんな日にこんな場所で、かなりの人出の中で遭遇するなんて、逆の意味ならどんなに幸運だっただろうか。 「え……、和志?」  たまには帰って来いと言われて実家に帰省していった。年明け、零時の時報ピッタリに和志にあけおめメールを送った。ほどなく返って来たメールには、これから家族と初詣に行くとあった。元日は親戚が家に集まって皆で酒盛りだと書いてあった。和志の実家は新幹線とローカルでたしか6時間。  どう考えてもいるハズが無い。そう思ったオレは一度目を閉じ深呼吸し、それからゆっくり目を開けた。でも残念ながら状況は変わらず、いや、それよりもっと悪くなっていた。さっきは気が付かなかったが、和志の隣にはオレの知らない男がいたのだ。二人で肩を寄せ合いながら、引いたばかりのおみくじを見せ合っているようだった。  あいつは誰だ?  唖然としてる間に和志たちはその場を立ち去って行った。よく見れば、男の手は和志のコートのポケットの中。和志を見る男の表情は……。  その後、どうやって家へ帰ったのかは覚えてない。気が付いたら夜だった。そんな中でも部屋に灯りが付いて、暖房もしっかり入ってたのが不思議な気がした。  翌一月二日、オレは和志の部屋へ行ってみることにした。もしかしたらあれは見間違いだったかもしれないから。たまたま和志に似てる人を本人だと錯覚しただけかもしれないから。だから和志の部屋に行って、誰もいないことを確認して安心したかったんだ。一応和志には当たり障りの無い内容をメールしてみた。でも事前に言われた通り、和志からのメールは無かった。家族や親戚の相手でメールする余裕は無いだろうと……。  そしてオレはまたショックを受けた。  電車を降り和志の部屋まで。早く確認して安心したい気持ちと、万が一昨日(きのう)見たのが本当だったと知った場合のショックとのせめぎ合いで、結果、オレの歩調はとてもゆっくりしたものになっていたと思う。知りたいような知りたくないような。昔の和志は浮気なんて平気でするヤツだったけど今は違う。オレと付き合ってからの和志は、オレ以外との付き合いは無かったハズだ。あれは学生時代のことであって、社会人になった今は違うハズ。  頭の中でごちゃごちゃ考えつつ、そろそろ和志の部屋が見えてくる頃だと顔を上げた。坂を下って上ると言う地形の関係で、ここからだと和志の部屋のベランダが見えるのだ。そして顔を上げたオレが見たのは……ベランダでシーツを干す知らない男の姿だった。  道の真ん中に立ち止まって、その場から動けなかった。知らない男はよく見れば昨日和志と一緒にいた男だ。その男が和志の部屋のベランダでシーツを干してるその意味は?  唖然として眺めてると部屋の中から和志が出てきた。シーツを干していた男に後ろから覆いかぶさる和志。一言二言会話を交わし、ついでに耳たぶを食む。それはよくやる和志のクセだった。男はくすぐったそうにしつつもその行為を受け入れていた。見ているだけで分かる甘い雰囲気。それから二人は部屋の中へ戻って行った。  年明け早々二日続けてショックを受けるオレ。しかも二日目は自分から受けにいったようなものだ。傷付きたいワケじゃなかったのに、でも心のどこかではきっと傷付くだろうと確信していた。だから、ショックを受けたワリには冷静だったと思う。立っていた場から引き返し、普通に自宅に戻って来た。夜もしっかりとメシを作って食べた。人間はショックを受けても普通に生活できることに、何故か無性に笑いたくなった。  和志からメールが来たのは一月四日の夜だった。今実家から戻ったとのメール。悩んだ末、オレは『おかえり』と返事を返しておいた。  明日から仕事が始まる。

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