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【背中】世界王子
「───は、あっ…ン!」
下方から忍び込む身を貫く圧迫に押し出された嬌声が喉から逃げる。上質なシーツを手に掻き集めて迫る快楽に涙する中で、背後を覆ってくる広い胸板が密着する温かさは安心を生んでくる。
「か、ず…っ…ァ!…和、ッ哉さ…!」
恋しい名前を呼ぶと、行為の最中でも口付けをくれる。ベッドを軋ませながら繰り返していた律動を緩め、俺の肩へとそっと落ちてきた唇に胸の奥がジワジワと熱くなった。
そして囁く。
「…ッは…、…トモ…っ…!」
「───ッ…!」
耳にピッタリと唇を寄せ、俺の名を紡いでから再び激しくなる腰使いに頭の中は真っ白だ。深く繋がる重たい振動が腹を通って嬌声に変わる。彼の欲望が自分に向いてるのを実感するこの瞬間が何より快感だ。
「ア、い…ッ、イッく…!イッちゃ…!」
「…ッは、…今日は、どっち…?」
「ぐ、…ぅ…!」
絶頂手前で大きな手に握られた自分の熱棒。それでも胎内は彼の滾った肉塊にゴツゴツと突かれて堪らず唸った。
「なぁ…?…どっちがいい…っ?」
囁かれた耳朶に擦れる彼の髭にゾクゾクとした快感が走る。
「ア゛…は、外っ…今日、は…そとっ…!」
「…は、今日もか?…ッ…分かった、…!」
「ッ!」
ラストに向けて仕上がる打ち付けと同時に熱を解放される。両手にガッチリと捕らわれた腰は彼の下腹部に繋がり離れられぬまま、ガクガクと揺さぶられる視界をシーツに埋めて迫る絶頂の予兆に体が歓喜した。
「ア!あっ…!ア…ッあァ────!」
「───ッ…!」
ギュッと締まる内部と噴き出した欲望。狭まる内部に抵抗して固く張り詰めた彼の肉塊が強引に引き抜かれる感触に強烈な切なさを覚え、同時に興奮が増す。
自分の望み通りに背後の腰元へ噴き掛けられた熱い白濁が皮膚に当たる感覚にもどかしくも堪らない気持ち良さを楽しんだ───。
「───明日もクラブあんのか。」
「ある…。あれよ、体育祭近いからほぼ毎日あるんだよ…。もう俺ら終わってあとは就活のみなのに…ッ…!」
「学生最後の体育祭だろ?そりゃお前、OBとか関係ないわ。出ろ出ろ。」
事が終わった余韻に浸るいつもの至福の時間。同じベッドで真っ裸になって、彼は隣で煙草を吹かし、俺は腰を抜かしてうつ伏せで寝る…が、今回は違う。
俺はうつ伏せのまま両手をベッドに叩き付けた。
「俺ほんとは和哉さんに中出しされたい!!!」
「……おぉ、健全な男子大学生にあるまじき発言。」
「でも中出しされたら明日マジでシヌ…っ!」
「ただでさえお前2ラウンドで限界だもんなぁ。」
そう。そうなのだ。
俺は体力も無ければ胃腸も弱い。本当はもっとエロエロな事をしたいし、先も言ったけど中出しもされたいし、色んな体位で和哉さんとの関係をもっと深めて虜にしたい。でも出来ない。哀しい程に貧弱体質だから。
「うっ…うっ…俺だって本当は…もっとエロい子なんだ…和哉さんの趣味にだって応えられる筈なんだ…うっ…」
「…俺が生粋の変態でノーマルプレイに物足りなさ感じてるみたいに聞こえるからヤメロー?」
「だって和哉さん絶倫じゃない!俺なんかで事足りる筈が無いやい!」
「足りない時は他で埋めらぁ。」
「酷い!!」
俺が嘆くと彼は煙草を吹かしながらクックッと楽しげに肩を揺らした。怨めしいとばかりに睨み上げると、彼は片手で俺の頭をワシャワシャと撫でてくれた。これをされると、もう何も言えなくなる。
そして胸の辺りがギュッと痛むのだ。
もっと何か言える程の立場だったらいいのにと思う。だけど、俺は彼の隣に立ってる訳では無い。
「今日は…?」
撫でる手の下で隠れながら、俺は彼へと問い掛けてみた。ゆっくりと退いた腕の先では、フッと微笑む彼の優しい笑顔があった。
「…帰るよ。」
その一言が痛む胸を更に抉る。
「……娘さんのお誕生日プレゼント決まったの?」
だけど顔には出さない。
「あーいや、まだ。小さい頃はまだ迷わなかったんだがなぁ…最近は妙に洒落たがる。何が良いのかさっぱりだな。」
「無難にアクセサリー?」
「…まだ十四の娘には早くないか?」
彼は、一流企業に務めてるお偉い人で妻子持ち。可愛い一人娘と美人の奥さんが立派な家で彼の帰りを待っている。記念日は絶対会わないし、事を終えた後に朝まで居てくれる事も殆ど無い。あまり詳しく聞かないけれど、俺以外にもきっとセフレが居る。
こうして会う時はいつも遠い街の安価なラブホ。彼の生活圏から完全に離された場所で互いを晒け出す。
世間から見たら、俺も彼もなんて最低な男だと思われるかもしれない。
「…あの…和哉さん…」
「んー?」
新しいシャツを着込んだ彼の背中を、ベッドからぼんやりと眺めながら名を呼んだ。
「次、いつ会える?」
浮気相手の決まり文句。
「そうだなぁ…。…実は俺も、娘の誕生日とでかい仕事があるから暫く無理かもしれん。」
「……そっかー。」
繋ぎ止める手段は、俺には無い。
身体だけの関係。この関係を崩したら、彼はあっさりと俺の前から消えてしまう。
「でもまぁ、時間作れた時はまた飯でも食おう。うまい蕎麦屋があるんだ。そこの海老天がほんと美味くてな。トモも絶対気に入るぞ。」
「…ジジ臭。」
「うるせぇ。」
お互い笑いながら俺は彼をベッドから見送り、彼は「またな」と「ゆっくり休め」と言って扉を締める。これが、俺と彼との「通常」なのだ。
「…………はああああぁ…」
一人残された安いラブホのベッドで俺は何度目かの溜息をついた。
諦めるべき…何度もそう思ったし、話をしようと思った。だが、顔を合わせたら駄目なのだ。決意が揺らぐ。
「…あー…俺ほんとダメな奴…。」
独りで朝を迎える寂しさってのがどれだけの孤独感を味わうのか、あの人は知らないだろうな…。
深く考えれば考える程に落ち込む。
俺はジワッと滲む視界を固く閉ざし、一人では広すぎるベッドの中に蹲りながら眠る事にした───。
・・・・・・・・・・
「───おい、友樹。」
「ああ?」
「大丈夫か?」
「…………死ぬわ!」
隣に座る友人に肩を叩かれて俺は手に持っていた紙パックの牛乳をグッと握り締めた。ストローから飛び出たミルクが目の前に座るもう一人の友人の眼鏡に掛かる。
「うあああっ!和哉さんに会いたいいいぃ!」
体育祭も無事に終わりました。
就活も目処が付きました。
和哉さんと最後にヤったあの日から約一ヶ月程の年月(?)が経過しました。
はい、俺、禁断症状です!!
「飛び散ったミルクが卑猥に見える程には溜まってる。」
俺はワナワナと震えながら怒るでもなく冷静に眼鏡を拭き取る友人を凝視していた。
「そんなに溜まってるなら自分から連絡つけりゃ良いじゃん。」
「…それか、他で発散。」
友人二人からの貴重なアドバイスは有難い。うん。非常に有難いよ。
「出来る訳無いじゃんそれ何度目のアドバイスよ君達。」
どっちのアドバイスも無理でござる。
こちらから彼へ連絡をする事はまず無い。理由は簡単、妻子持ちの彼へセフレの俺が「会いたい」という連絡はかなりリスクがあるから。他で発散なんて以ての外。
こう見えて俺は一途なのである。
「…はあ…一人でヌくのも辛い…余計寂しい…」
俺はテーブルに突っ伏した。放心し掛けである。
「どうでも良いけどそれ食堂の昼飯食いながらする話じゃねぇな。」
「気晴らしにカラオケでも行く?」
カラオケかぁ…。
「…行く。」
和哉さんに会えないストレスを発散させよ…。
結局、彼からの連絡が無ければ会える訳じゃない。こうなる度に、いい加減目を覚まそうぜ、と思う。…思うだけ。
「じゃぁ今日の講義終わったら───」
《さらばぁ~地球よ~旅立ぁつ艇はぁ~♪》
───はっ!!
「和哉さんからのメールだ!!」
「……なんで好きな奴からのメール着信音がヤ〇トなん?」
「……色々覚悟してるつもりなんじゃない?」
友人達の声など耳には入らず、俺は自分のスマホを手に開いた。
《長休取れた。少し遠くに遊びに行こうか。今夜会えるか?》
「~っ!」
スマホの前で何度も頷く俺を見て、友人二人は「カラオケはまた今度な」と肩を叩いてくれた───。
・・・・・・・・・・・
「───え!?温泉!?」
「温泉。…まぁ、今度接待で使う旅館の下見みたいなもんだ。」
久しぶりの和哉さんの姿はいつまでも目に収めときたい。天ぷら蕎麦を食べるのもカッコイイ。ジジ臭くても似合う。カッコイイ。
そんなボケーッとしていた俺の耳に入った彼からのサプライズ。咀嚼していた蕎麦をゴクンと飲み込みながら目を輝かせる。
「い…行っていいの、…ですか。」
「…ふは、何改まってんの。良いよ。…何気に長い付き合いなのに、飯屋以外に連れてってやれてねぇなと思ったからな。」
「っ………!」
こういう所。彼のこういう所が好きなんだよ、俺。
「で、どうする?行くか?」
「行く!」
断る理由なんて何処にあるのだろう。
嗚呼…やっぱり俺は、彼の顔を見たらもう背徳感もどうでも良くなってしまうんだ。それくらい好きなんだ。
俺は目の前に盛られている蕎麦の美味さと二人で初めて生まれた遠出の旅行への嬉しさに完全に舞い上がっていた───。
・・・・・・・・・・
そして、旅行当日の朝。
待ち合わせた駅前でしっかりと荷物を背中と片手に装備した俺はまだ来ぬ愛しい人を待っていた。
もうこれ以上の幸せは無いんじゃないかと、それくらいのテンションがここ数日ずっと続いていた。だから、和哉さんが現れた時はそりゃもう……目が点になりました。
「お?彼が親戚の子ですか?」
「きゃー!笠原社長の甥っ子!綺麗な顔してますねー!」
……………え?
カジュアルな格好した自分とは相対し、和哉さんと共に現れたスーツ姿の団体に俺は絶句した。
「…か…かず、和哉さん!?」
「ん?どうした、トモ。」
「いや、…いやいやいやいやいや、誰!?あの人達誰!?」
「あ?あれ、言ってなかったか?部下も連れてくって………」
「…………………。」
聞いてませんけど?
え?
え?え?
何これ、何それ。
ほんとになんかもう、仕事の一環みたいな?いや、確かに接待の下見って言ってたけど。
「お迎え場所からだと時間帯的に混み合う道路ですねぇ…。」
「少し早めに予約入れときましょう。」
車の中で飛び交う仕事の話で俺は完全に萎縮した。気を遣われて和哉さんの隣に座る事は出来たが、会話らしい会話は一切出来なかった。時折、彼から「酔ってないか」と声を掛けてくれる事はあったが、その頃には流石の俺も不貞腐れていた。スマホで友達に今の現状を愚痴と共に送信しまくっている。
《マジかよwwwwwwww》
《乙wwwwwwww》
《乱交?やるなトモ》
するかボケナス!!
《萎えたなら帰ってきたら?仕事に付いてってるだけじゃんw》
……それは…そう、だけど…
《って言うか、それ完全にペット扱い。無いわー》
《部下連れ旅行withセフレ=乱交》
うるせえうるせぇ!!
ちくしょー!!
和哉さんのバカァアアア…!!
「……………。」
隣に座る彼からの視線に気付く訳もなく、俺はスマホをギリギリと握り締めていた───。
旅館に着いても、彼は部下と共に下見へと動き回る。余程大事な接待なんだろう。彼と部屋は一緒だが、到着して早々に女将や板前さんと何やら打ち合わせを始めた。俺は完全に自由行動。部下の一人が気を遣って声を掛けてくれるくらいに放ったらかしだ。
「トモ君だっけ?社長が来る前に教えて貰ったよ。俺は部下の木下です。宜しく。」
「はあ…。」
「もし良かったら一緒に見て回る?社長も少し時間かかると思うし。」
「いや…良いです…。てきとーに散歩してきます…」
若くて頭良さそーな兄ちゃんだな。スーツも似合う。
でも俺の好みは和哉さん一択!彼と出会ってから、どんな男の誘いもお断り!すまない、兄ちゃん!
…って事で、俺は部屋に荷物を纏めて適当に歩き回る事にしました。
「これ旅行じゃねぇからな、和哉さん…っ!」
一人で罵りながら土産屋さんを散策。
一人で文句垂らしながら食べ歩き。
一人で不満を呟きながら写真を撮る。
………いや、案外楽しい。
「景色も綺麗だー。」
温かいみたらし団子を食べながら、立派な橋の上でのんびりと美しい自然を堪能した。
「…俺のイメージでは隣に和哉さんが居る。」
そんで二人で他愛もない話題でケラケラ笑いながら団子を食べて、一緒に土産屋さんを見て回る。此処なら和哉さん好みの和食屋も多いから、飯屋を選ぶのも楽しかっただろう。
「…………帰ろ…。」
イメージで満たされる訳もない。
寧ろ寂しいばかり。
俺は癖付いた溜息を漏らしながら部屋に戻る事にした───。
部屋に備え付けされていた露天風呂は意外と広くて丁度いい温度だった。またイメージしかけたがすぐに振り払う。何度も頭の中で妄想したって虚しいだけだからだ。
和哉さんは結局一度も部屋に戻る事は無く、俺は濡れた頭をタオルで拭きながら綺麗に二つ並んだ布団を見下ろした。
「ぬぁーっにが連れてってやれてない、だ!ばーかばーか!和哉さんのばーか!」
浴衣を着込んだ足で何度も布団を踏む。
夜の十時を過ぎても扉が開く気配は無い。部屋に用意された飯は一人分。元々戻れる都合では無かったらしい。
現実は甘くないとつくづく思いました。
二人で一緒に旅行だなんて、夢のまた夢でしたね。はいはい、すいません。神様なんか居るもんか!
俺はムスッと顔を顰めながら布団を被った。
静かな夜の囁かな虫の鳴き声や川の流れる音に混じり宴会騒ぎの笑い声が微かに聞こえた。時折、窓から夜の散歩を楽しむ人の声も耳に届く。
「………………。」
俺、何で此処に居るんだろ。
浮かれたりして馬鹿みたいだ。
ここ数日間の幸せテンション返せ。
瞼を閉ざして、いつもより強い孤独感をやり過ごそうとする。涙が滲む中、身体は正直なもので…知らず知らずに睡魔も襲ってきた様だ。気付いたら俺の意識は微睡みの中へと誘われていた───。
「───モ…、…トモ。」
「……ん…」
「…悪いな、相手してやれなくて。」
和哉さん…?
「ほんとは、俺だってお前と二人で旅行するつもりだったんだぞ。」
ホントかよ。
今や言い訳だぞ、それ!
「なんだかんだ話を逸らしてる内に部下を連れてく事になっちまった。…お前が、あんまり嬉しそうだったから…結局言えなくて、…お前を放ったらかしちまったな。」
……許しませんけど。
「…………なぁ、トモ。お前…」
……?
「……もし俺が、…家族も仕事も無くなったら、お前どうするよ。」
………何の話?
「───こんな立派な旅館にだって連れて行けねぇし、美味い飯も奢れなくなるかもしんないな。記念日らしい事も出来ないかもしんねぇ。…お前の目には、俺がキラキラした人間に見えるかもしんないが、実際はそうでも無いただのオッサンだ。」
……そんな事ない。
俺は和哉さんがハゲても好きだぞ。飯なら俺が頑張って作るよ。金が無くったってさ、世の中どうにかなるもんだよ。
「───…寝てるお前に言うのも、意味が無ぇのは分かってんだ。」
………?
「…好きだよ。お前が。」
───…!?
「朝までしっかり可愛がってやりてぇくらいに、お前さんが好きだ。」
「───…ほんと…?」
思ったより、自分の声が掠れててビックリした。
だが、それ以上に薄く開いた視界に映った和哉さんの顔が驚きに染まっているのを見て、俺は思わず力無く笑ってしまった。
「…起きてたのか。」
「よく…分かんない…、夢かも…」
微睡みの中なのか、現実なのか。よく分からない。
ぼんやりとする頭で見上げた彼の顔は、差し込む月夜の明かりで青白く見えた。彼もすっかり浴衣を着込んでいて仄かに石鹸の香りがする。
「…眠いだろ。」
彼の優しい手の平がそっと頭を撫でてくれた。
心地良さにまた夢の中へと旅立ってしまいそうだ。
「…やだ…寝たくないや…」
俺は重たい手で傍に座っている彼の浴衣の端を摘んだ。
「トモ…」
「和哉さん不足で…禁断症状が出ているんだぁ…」
「…禁断症状?ふ、なんじゃそりゃ。」
「妄想が止まらない…常時動悸息切れ…寂しくて和哉さんをオカズにヌく…」
「おっと。そりゃ初耳。」
「…寂しくて…」
「…!」
「たまに泣く…」
でも、次に会う時は笑うんだ。嬉しいから。
「和哉さんに出逢えたのが…一番嬉しくて、一番悔しい…」
もっと早く、和哉さんと出逢えてたらなって何度思った事か。
「………どんな和哉さんでも、俺は…ずっと傍に居るよ…」
撫でてくれた彼の手に頬を寄せ、愛情を示す様に頬を擦り寄せた。
「トモ…。」
「でも今日は許さんけどな…。」
「……う、いや、うん。まじで悪かった。ほんと。」
「…死ぬ程抱いてくれたら許そう。」
「!」
「2ラウンドで終わらせないで。」
フッと笑ってやると、和哉さんは目を瞬かせた後にいつもの好きな笑顔で笑い返して来てくれた───。
・・・・・・・・・・
「──っ、はあ…!」
浴衣の襟が肩からズレ落ち、白く湿った肌に落とされた柔らかな接吻。月夜の差し込む視界に見上げた彼の浴衣姿と濡れた髪に胸が高鳴る。彼の獣地味た眼光で射抜かれただけで溜まった欲求が暴れ出してしまう。
「…相変わらず…綺麗だな、お前は。」
「…ッ…!?」
普段そんな事、あまり口にしないのに。
身体中に接吻を落とされながら囁かれて心臓が破裂しそうだ。
ゆっくりと皺を作りながら脱がされていく浴衣は腰紐で支えるだけとなり、俺は彼の首に腕を回しながら脚の合間に挟まる逞しい身体を見下ろした。彼の下腹部から覗く熱の盛り上がりが、薄い浴衣の生地越しに重なり合う。少しずらせばすぐにでも繋がれるのだが、まるで焦らされている様だ。
「か、和哉さ…」
「…ん?」
顔に降ってくる接吻の雨と、布越しの秘部に触れてきた彼の熱がもどかしい。
「じ、焦らすなよぉ…!」
「……ふは、悪い…」
彼の手で大きく開かれた脚。遮っていた浴衣は乱れ腰紐から下が晒されると、まだ慣らしてもいない尻の狭間へと熱い尖端が触れてきた。
「…声は、抑えろよ…隣に居るから…」
「…うぇ、ぜ…善処しま───」
───ギチッ。
「───あ゛!?」
「っ…!」
言葉を待たずして押し込まれた熱に構えなど間に合わず、強烈な圧迫に押されて飛び出た嬌声。喉を反らし、彼の背に爪を立てて浴衣を握り締めた。
「声、抑えろ…って…!」
「ひ、い゛…!待っ、ア!」
抑えろと言いながら意地悪い笑みを浮かべる彼の顔を垣間見た。隣に聞こえてしまうのを恐れる隙など何処にも無く、狭い胎内を強引にこじ開けてくる彼の熱に目を見開く。それでも押し殺すべきだろうと、唇を閉じると悲鳴染みた声となって部屋に響いた。
「ん゛、…!」
「…ふ…、可愛い…」
涙を滲ませながらあまり刺激してくれるなと目で訴えたものの、彼の笑みは変わらない。押し込む狭さに汗ばむ様子をうっとりと見上げる俺に、彼は躊躇うこと無く腰を揺らし始めた。
「ッひ、…んぐ…ん!」
「は…、そうだな…いい子だ…っ!」
「ッ───アぅ゛…ッ!」
ズンッと押し込まれた熱が自分の身体を大きく揺らす。何度も貫く彼からの律動に、俺は呆気なく口を開いて思考を手放した。
聞こえてしまうだろうその緊張感が重なり、ゾクゾクと走る快楽の渦に意識が持っていかれる。卑猥な肌音に水音が混じり始めて、自分の中に収まる彼の熱から溢れた先走りに興奮した。
「あっ、ア!…かず、…やさ…ァ!」
気持ちいい。
自分だけに注がれる愛情が。快楽が。
「トモ…っ、は…トモ…!」
何度も名前を囁き合い、俺はこの夜、彼と何度となく果て、何度となく愛を囁き、今迄に無い程に身を焦がした───。
・・・・・・・・・
「………り、離婚!?」
『あぁ。』
和哉さんから珍しく電話が入ったから何事かと思った。
「ななななななんで!?なんで!?大丈夫!?」
『いや…まぁ、円満離婚ではある。娘とも会えない訳じゃないし、佳代子も少し変わってるからな。』
佳代子とは、彼の奥さんの名前だ。
美人な彼女は和哉さんに負けず劣らずの敏腕経営者である。
話を聞けば、元々、和哉さんと佳代子さんはよくある見合い結婚であったらしく。愛情が芽生える事は無かったと聞く。それでも娘が出来た時はそれなりに夫婦として子供への愛情は注いできたが、娘さんが年頃になるタイミングでそれぞれの生活を改めようという話になったそうだ。
ちなみに、娘さんは佳代子さんへと引き取られた。どうやら次期経営者として育てたいとか。
お互い納得した形で別れた様子ではあるが、突然の話で俺は戸惑いを隠せない。
「…え、と…俺は…」
『……どうだ、トモ。』
「え?」
『俺と一緒に来てくれるか?』
「っ…!」
和哉さんはいつもの口調だった。
言ったはずだ。
俺はどんな事になっても、和哉さんの傍に居る。
居たいって。
「はい…!」
電話の向こう側でどんな顔をしてるだろうか。
もう、隠さなくて良いんだと思ったら…言葉は止まらなかった。
笑ってくれた彼の声に、俺は泣きそうになりながら何度も好きだと伝えた───。
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