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母は、俺が父がいないことによって寂しい思いをしていることをわかっているようだった。だからよく俺に話しかけてきてくれたし、二人だけではあるが家族の時間を大切にしようとしてくれた。そして、父が家族のために頑張って仕事をしてくれているのだと、俺に言い聞かせた。父と母は、仲のいい夫婦だった。
しかし、俺は子供で、そんな母のことも、そして父のことも理解しようとはしなかった。中学生になったころから徐々に、非行とまではいかないが、真面目な学生とは言い難いような生活を送るようになっていた。友人の家に泊まることが増え、家に帰ることがめっきり少なくなったり。無暗に彼女を作っては遊び明け暮れたり。典型的な不真面目な生徒を演じては、きっと無意識に親に対してあてつけをしていたのだろう。
しかし俺は本質的には生真面目な人間で、大人数で騒ぐことが苦手なタイプだった。不良のふりをしながらもこっそり勉強をして成績だけは良くしておかなければ不安だった。
いつしか、闇雲に増やしていった遊び友達との関係と、自分自身の本来の性格、それの板挟みになってひとりで苦しむようになっていた。遊びと勉強の両方を、半ば強迫観念にとらわれる形で打ち込んでいたので、寝不足になることが増えてきたし、精神的にも不安定になっていたと思う。その両方を丁度良くこなすことができるほど、器用な人間でもなかったのだ。
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