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「お前の事なんて、最初から大嫌いだった」

「お前の事なんて最初から大嫌いだった」  “耳を疑う”っていうのは、多分こういう時に使われる言葉なのかもしれない。  ː花乃(はなの)から告げられた言葉は、あまりにショックで、オレは、そんなどうでも良い事を考えていた。でも、そんなどうでも良い事は考えられるのに、頭は真っ白で、他の事は考えられない。たとえば、1番考えなければいけないだろう、今、花乃から告げられた言葉の意味とか、理由とかが。  一応口を開いてみたけれど返答は出てこなくて、はく、なんて間抜けな空気が漏れた。仕方なしに口を閉じる。  それもそうなのかもしれないな、なんて、気付けばオレの口元は笑みの形を浮かべていた。どうやら笑っているらしいと、自分の事なのに他人事のように思う。やっぱり頭とか、心とかが、どうにもいる。  オレは自分の事を「冷めている」って認識してるけど、同時に恋人である花乃が関われば例外なんだっていうのも、自覚している。そんなオレなんだから、花乃から別れを切り出されたりしたら、頭も心も働かなくなるだろう。  と言うか、これは「別れを切り出された」って言い方で良いんすかね? 相変わらずバグったままの頭は、そんな事ばっかり考える。だって小説や映画、ドラマにマンガ。そういうので恋人同士の別れ話が取り扱われる事はあるけれど、そこでの言葉なんて、大抵お決まりじゃないっすか。「もう疲れたから別れよう」とか「他に好きな人が出来たの」とか。  でも今花乃が言ったのは、「最初から大嫌いだった」だ。  それって、「気持ちが無くなった」っていうんじゃ、ないじゃないっすか。  最初から大嫌いだったなんて、最初から気持ち自体が存在しなかったって事だ。  そこに気付いてしまえば、情けない事だけど、オレの頭はどんどん真っ白になって、上手く働いてくれやしない。我ながら情けないっすね。こんなに細い神経だったかな。  花乃に呆れられて嫌われるのも納得だ、なんて思って、ああ花乃はオレを嫌ったんじゃなくて、最初から嫌いだったんだな、と自嘲した。 「……そうっすか」  多分、花乃が切り出してから何分かは、本当に黙り込んでいたんだと思う。秒針の音がやけに大きく響いていたと思うけど、オレにはその秒針の音なんて、気にしているだけの余裕なんてない。  オレの耳に響いているのは、さっき花乃から言われた別れの言葉だけで、オレの目には見慣れた自室の風景さえ入らない。オレを真っ直ぐに見ている花乃だけ。  そんな状態だったから、どんなに時間を掛けたところで、やっと出てきた言葉が、やけに短くて、ひどく頼りない、情けなさそのものだったのも、当然なのかもしれない。

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