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もう2度と会わない人
「おい、青斗! 知ってるか!?」
幸成が焦りきった声と一緒に飛び込んできて、オレはちょっと驚いた。幸成はオレほどじゃないけど割と冷めていて、あんまり騒いだりする方じゃない。だから幸成がこんな風に飛び込んできたのに、オレは何かあるんじゃないかって思って。
ある程度話の内容に覚悟を決めて「なんすか?」と聞こうとしたところで、
「花乃が、花乃がな」
焦った声のまま、花乃の名前を繰り返す。それだけでオレの覚悟なんてどうでも良くなった。だってもう、花乃の事はオレにはどうでも良いから。
オレと花乃は、なんて言っても「お似合いのカップル」って評判だったんだから、オレか花乃を知っていれば、花乃やオレの事も知っている。ましてや共通の友達である幸成なら、尚更っすねぇ。オレは幸成に何度か相談してるし、花乃も幸成に何度か相談してたみたいっすから。
そんな幸成なら、もし花乃が他の男と仲良さげにしていたり、彼女と歩いていたりなんていうのを見て、慌ててオレに教えにきてくれる可能性もゼロじゃないっすね。もう今となっては余計な世話だけど、一応、感謝はしておかないと。
なんせ、花乃と別れた事を誰にも言わないって選んだのはオレだ。
幸成がそうであるように、オレと花乃には「共通の友人」っていうヤツが少なくはない。だからもし、花乃に別れを詰め寄るような人間がいたら、花乃に迷惑が掛かる。もしもそれが、オレを思ってくれての結果でも、花乃に詰め寄られるのはオレにとっても迷惑だ。
何より誰かが花乃を悪く言うのなんて、忌避したかったんすよ。
でも幸成なら、その点は大丈夫だろう。なんせ花乃にはそれなりに甘いし、花乃が嫌がる事をしない男だ。短くも浅くもない付き合いで、その辺はちゃんと分かってる。
だから、わざわざこんな風に血相を変えて駆けこんでくれる事のない様に、きちんと言っておかないと。
「えと、心配してくれるのは、ありがたいっすけど、オレ、花乃と別れたんすわ」
幸成が浮かべた表情は、オレの錯覚とか、都合の良い深読みなんすかね? 幸成の顔が、凄く驚きに染まって、それから「痛そう」な顔になった。
何だろう、この顔。ただ単純に、別れた途端元恋人が新しく恋人を作っていた男への同情、って感じではなくて。
「そういうんじゃねぇよ。……いや、別れたら関係ないのかもしれないけど、一応聞いとけ」
嫌だ、聞きたくない。幸成の顔と声は、オレに無条件でそう思わせた。聞きたくない。聞きたくないけど、聞かなきゃいけない気がして。
「……花乃は、死んだんだ。自殺したんだよ」
ぐわんと頭が揺れる、なんて。そんな表現があるけれど、今のオレは本当にそれだった。頭が揺れて、意味を上手く呑み込めない。
花乃が死んだ。花乃が自殺した。その言葉が上手く理解できない。ぐわんぐわんと揺れるオレの頭で、ただその言葉だけが再生されてた。
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