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第1話 入学式

「いってきまーす!」 大きすぎるランドセルが左右に揺れながら去っていく。 入学式が終え教室に走っていく我が子は、今日が楽しみで昨夜もなかなか眠りにつかなかった。 「ジン、子供って大きくなっちゃうんだね」 アルトが栗色のくせ毛をふわふわと靡かせて呟く。 この日を迎えるまで6年間、リトが生まれてからずっと俺たち家族は色々な国を転々としていた。長くて2カ月、短くて2週間しか同じところに留まらない。そんな生活をしなくてはいけなかったのは俺の仕事のせいだ。 リトが小学校を始めるタイミングでどこかに留まろうと言ったのはアルトだった。 そして1か月前に引っ越してきたのは、本島からフェリーで30分の距離に位置する小さな島。アルトと俺が出会った思い出の土地だった。 扉の閉まった教室を未だに眺めるアルトの身体を抱き寄せると、その目には薄っすらと涙が浮かんでいた。四六時中リトと一緒にいたアルトにとって離れ離れになるのは今日が初めてだ。 「これからは二人っきりの時間が増えるんだぞ」 目元に口をつけると綺麗な雫が頬に落ちた。 出会って10年目、夫夫(ふうふ)として共に過ごして7年目。 校庭でひらひら舞う花びらのようにアルトの白い肌が染まった。 ぎゅっと抱きしめると、淡く色づくアルトの頬が俺の胸に押し付けられた。 「激しくしないでね」 「約束はできないな。今日は声我慢しなくていいんだぞ。アルトの啼き声(なきごえ)が聞こえるのは何年ぶりかな」 「ダメだよ。まだ学校…」 真っ赤に染まった頬を押さえてアルトはすたすたと先を歩いて行った。 「どこに行くんだ?出口はこっちだぞ」

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