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第11話
デネボラにきて2ヶ月になり、アルは新しい生活にある程度慣れてきた。
訓練生の朝は早い。5時起床、6時から13時まで2度の休憩を入れつつ運動系の、15時から20時まで座学系の訓練がある。休みは10日に一度。
厳しいように思えるが、これはアルが望んだことだった。3ヶ月で仕上げるか、半年で仕上げるか。
早く仕事に就きたかったから、迷わず前者を選んだ。
ちなみにアルと同室の2人は半年で仕上げる方を選んだらしく、このまま潤滑に進めば、本格的に仕事に就くのは3人同時である。
全身から吹き出す汗で服が張り付いて気持ちが悪い。拭いてもどうせ溢れてくるから、シャワーを浴びるために足早に部屋へと戻る。
訓練生の2時間の昼休憩は昼と入浴を兼ねていて、だいたいはシャワーを浴びてから食堂に行く。
カイとロルフは12時ごろにシャワーを浴びたはずだから、多分いないはず…と思い、アルはノックをせず部屋のドアを開けた。
「ぁっ…んっ…、もっとぉっ…!!」
「…お前っ、これ以上したら壊れるだろっ…
ぁっ…やめろっ… 」
バタン。
何かみてはいけないものを見た気がして、ドアを閉める。アルの目に映ったのは驚きの光景で。
リビングの床の上、カイとロルフが全裸で盛大に交わっていた。
片手で互いの後孔に道具を挿入し合い、もう片方の手で互いの性器を弄り合い、キスは盛大に舌を交えて。
Ω同士の交わりなど見たことがなかったが、ここまで激しいと娼館で働いていたアルでも衝撃を受けるレベルだ。
「あー、遅かったか…。
あいつらがヒートに入ったから、今日から1週間お前には予備の個室を用意した。悪いがそっちを使ってくれ。そこの突き当たりだ。
備品は全て用意してあるし、指紋登録も済んでるからすぐ入れる。」
どん、と勢いよく肩に手が置かれたと思ったら、ヨルの声が聞こえてきた。
息を切らせてはいないが、走ってきたのか額に汗が光っている。
あいつらが、ということは、2人とも同時期にヒートに入ったということだろうか。それにしてもあんな風になるなんて…。
「わかりました。報告ありがとうございます。」
あまり詮索しないほうが良いのだろう。アルは普通と無縁に生きてきたから、むしろこれが普通なのかもしれない。
深々と頭を下げ、何も追求することなく指示された部屋へと向かった。
乾きかけの汗を、ぬるめのシャワーで流していく。2ヶ月の間かなり鍛えたはずなのに、鏡に映るアルの身体にはこれといった変化がない。
鏡に映る自分の顔を見るのが嫌いだった。
弟や親からも、娼館の従業員や客からも、色違いの目を気味悪がられてきたからだ。
しかし今は、自分の顔を見るたび、この瞳を白鳥座の二重星に重ね合わせ、美しいと言ってくれた彼を思い出す。
そういえば一度、天体望遠鏡という道具でわざわざピントを合わせ、その星を見せてくれたことがあった。
肉眼では1つの白い星に見えるが、望遠鏡で覗いたその星は、トパズ色とサファイア色の2色に綺麗に分かれていて。
そのときまた、「アルの瞳と同じ色だ」、と言って彼に優しく頭を撫でられた。
あの幸せな時間も、美しい彼も、甘い香りも、一度だって忘れたことはない。
今自分はΩとして生を受けた中で非常に幸せな環境にいる。そんなことはわかっている。
でも、どうしてか心にぽっかり穴が開いて、それがどうしても満たされない。
薄々気が付いていた。アランは、アルにとって特別な存在で、アルは彼に恋をしていたのだ。
せめて彼の笑顔に覗く翳りの意味くらい知りたかったと今でも思う。
馬鹿げているとわかっていても、忘れられない。
意図せず自分のほおを伝ったぬるい液体がシャワーによるものではないことは角度的に明らかだった。
でも、これ以上自分の惨めさを認めたくなくて。
かけてあったタオルでがしがしと乱暴にその液体をぬぐっていく。
彼が自分のなんだと言うのか。なぜこんなにも彼のことを考えて心が痛むのか。
そんな疑問を抱えながら。
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