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第22話

学会4日目の夜。 アルは身体が火照って堪らなくて、困惑していた。 それはそうだ。 ヒートでなくても運命の番と何日も過ごせば身体に影響しないわけがない。これでも|ほぼ発情することのない《不感症の》アルだからかなりマシな方なのだろう。 治ることのない火照りを、どうしようかと考えあぐねる。このままでは仕事にならない。 アランは今シャワーを浴び始めたばかりで、浴室に耳をすますとざーっと湯が床を打ち付ける音が微かに聞こえてきた。 彼の入浴時間は平均20分。処理には5分とかからないから消臭剤をかける時間もある。 …仕方ない、か。 寝室に入り下半身をはだけ、すでに昨夜済ませたはずの自慰をもう一度行うべく、アルはベッドに横たわった。 わずかに勃ち上がった自身の小さな肉欲に左手をあてがい、尿道の筋に沿って緩やかに刺激していく。 それだけでしっかりと芯を帯びた中心に、思わず溜息をついた。 身体は確かに反応しているのに、心の中は空虚の一文字に尽きる。 だめだ、集中して早く終わらせなくては。念じれば念じるほど頭は冷静になっていき、身体だけが火照った状態になってしまう。 より快楽を強制するため、仕方なく鈴口に指を添える。後に響くため普段あまり触れない場所だ。 ぐりっと強めに親指を滑らせれば、とろりと透明な蜜が溢れる。 目を閉じると自然に、ある記憶が脳内で鮮明に再生された。 ヒート中、アランの手は、キスは、どうしようもなく優しくアルに触れた。それはアルが人生で唯一、他人による快楽を得た日の話。 ‘尻をあげて… …そう、上手だ。’ 受け入れたのが彼のものではなかったとしても、大切にされていると十分に感じることができた、甘やかな記憶。 反芻するとともに、アルは自然とあの時と同じ、四つん這いで尻を高く上げるような体勢を取っていた。 つぷりと後孔に自らの指を入れると、その強烈な快感から、もう声を抑えるのだけで精一杯だった。トントン、と近づいてくる足音に、気付かない酷に。 しかし。 …届かない。 自慰のときに弄るのは初めての器官だが、自分の指では彼が触れたあの強烈な快感を得る部分にはギリギリ届かなことを理解する。 アルはもどかしさに唇を噛んだ。 そのとき。 「アル?すまない、着替えを忘れて… 」 声とともにがちゃり、と寝室のドアが開いた。 おかしい。まだ5分とたっていない。 しかし入ってきたのがアランであることは、なによりも身体が示している。 ひどく熱かった。ぜえぜえと、息が切れてしまうほどに。 そこで、アルの理性はプツリと切れた。 薄手のインナーに覆われた、引き締まった上半身に誘われるようにして、半分無意識に彼の元へと歩み寄る。 もちろん今下半身には何も身につけていない。少し長めのワイシャツが辛うじて恥部を隠している状態で。 「…少し、手荒くする。我慢して欲しい。」 低い声が耳元で囁く。苦しみに掠れた、ひどく色っぽい、小さな声。 いきなり強くなったその甘い香と、彼の声の色気にやられ、歓喜に背筋がぞくぞくと震えた。 心臓がうるさい。 アルは小刻みに肩を震わせながら、もうどうにでもなってくれと彼の目を見て頷く。視界は涙でぼやけていた。 交わした視線の先、深い青がぐらりと揺れる。 途端、アランがアルの顎をつかみ、上を向かせた。口を開かれキスをされるのかと思ったが、口内に入ってきたのは彼の舌でも唇でもない。 無残に引き剥がされたベッドのシーツで、口の中が満たされていく。 その行為だけで膝がガクガクと震え、アルは立つことすらままならず、倒れこむようにベッドに仰向けに横たわった。 ペニスに彼の手が緩く絡められ、続いて淫液にまみれた秘孔を長く滑らかな指がつぷりと貫く。長い指はすぐにあの強烈な快感を得れる場所に達して。 「…ここだ。届かなかった?」 意地悪な問いかけに、一生懸命首を縦にふる。 溢れそうになった声は、口一杯の布切れに吸収されて消えた。強烈な快楽に、頭が真っ白になる。 滲む視界の中、彼の深い青い瞳だけがやけに美しく輝いていて見えて… …ああ、溶ける… そう思った瞬間に、前と後ろが同時に強烈な収縮を始める。 ふわり、と淡雪のような優しいキスが降り注いだ。 途端くたりと力が抜けたアルは、そのまま意識を失って。 「おはよう。」 目を開けると、まるで何もなかったかのようにアランがアルに微笑みかけた。 …いや、何もなかった。少なくともそういうことにしておきたい。 「シャワーを浴びてきます。」 言い残し、着替えを持ってシャワー室に向かった。 わずかに腰に残る心地よい倦怠感の意味は、考えないことにして。

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