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第26話

「…そんなに怯えるな、そそるじゃないか。」 気色の悪いニヤついた顔が、すぐ近くまで来ていた。アルは恐怖に震えるあまり、大きく見開いた目を、閉じることさえできないでいた。 「宝石みたいだ。」 ぬらり、とじっとり湿った舌がアルの目を這った。 生きてきて一度として感じたことのない不快感に、背筋が凍る。 初めての嫌悪感に涙があふれ、もとよりあった身体の震えはさらに酷くなった。 正気じゃない。完全にいかれた目をしている。それでも振り払うことができないのは、彼に勝つことなど不可能だと、本能が示しているから。 するりとズボンが抜き取られ、鍛えているようには映らない、白い滑らかな足が顔を出す。 「あの時と変わらないな。身体が大きくなったから、きっと俺のも受け入れやすくなっただろう? …綺麗だ。」 あの時… 彼は娼館の客だったのだろうか?相手した客の顔など覚えていないが、口ぶりからしてそう取れる。 先ほどアルの目をぬらりと這ったその舌は、今度は足の指先からふくらはぎ、膝、腿へとゆっくり腰に近づいていった。 「ひっ… 」 彼の冷たい手が腹部を押さえ、アルの下着をいともたやすく剥ぎ取った。 結果上はズタズタに引き裂かれ、下は一糸まとわぬ姿となる。 惨めさと恐怖に、冷たい涙がほおを伝った。この顔だけは整った恐ろしい男に、自分は一生飼い慣らされるのだろうかと。 四年前まで、自分はこんな風ではなかったと思う。命を絶つことに抵抗を覚えないほど、価値のない人生を送ってきて。 けれど、今の仕事には誇りを持っていて、アランに会うことも、彼の目的を達成する手伝いもできた。 弱くなったな… これまでがこんなに幸せだったのに、そしてこれからは絶望が待っているのに、今の自分は死ぬ勇気すらない。 ぐちゅり、と音を立て、無様に晒された後孔にふしばった太めの指が入ってくる。昔は慣れていた感覚だが、不快感にぞわりとした。 「…ああ、きつい。今は誰のものも受け入れていないんだな? 綺麗な君が、もう俺しか受け入れないなんて。痛くないようにゆっくりほぐそう。」 背中がコンクリートの床に押し付けられ、気づけば彼の左肩に右足を、右肩に左足を固定されていた。 後孔と性器があられもなく彼の目の前にさらされる。 中を犯す指はどんどん本数が増え、防衛本能からかわずかに溢れた蜜と合わせて卑猥な音を立てた。 過去には当たり前のことだったのに、今は恥ずかしくてたまらない。心も身体も酷く痛む。 「そろそろいいかな。」 指が3本に増えしばらくすると、彼の指がちゅぷんと抜かれた。代わりに痛々しいほどそそり勃った、グロテスクな雄棒が顔を出して… 「い、いやっ… 」 それを蜜口押し付けられた途端、恐怖も羞恥も構わずに、アルの口から拒絶の言葉が飛び出した。 …お願いやめて。もうこれ以上傷つけないで。 娼館に入りたての頃、防音室で、泣きわめきながら無理に身体を開かれたことを思い出す。 ばちん、といい音を立てて、ほおが叩かれた。 「拒絶できる立場じゃないだろう?」 どんなに拒んでもだめなんだと、どうして気づかなかったのだろう。諦めて目を瞑った。 そのとき。 「何をしてる!?」 あれ、どうして。そろそろ幻聴を覚えるまでになってしまったのだろうか。 アランの声が聞こえた気がした。香りだって、ふわりとあの甘やかな香りが、辺りに広がっている。 …きっと、錯覚だ。でもその錯覚でさえ嬉しくて。 アルはほわんと笑った。 彼自身気づいていないようだが、彼がこれほど自然に笑ったことは、人生初めてであった。どんな穢れも知らないような、無垢な笑顔。 なぜかユリアンの雄が身体から離れていくのを、アルは不思議に感じていた。

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