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fellow key 14
「ねえ、優ちゃん?」
結局、その後二人して果ててぐったりとベッドに沈み込んでいると、環がやたらと甘い声で俺のことを呼んできた。その言い方と窺うような目からして、なにを考えているのかは大体わかる。
「……もう一回したいのか?」
「うん。次はちゃんと優ちゃんの顔見てしたい。……優ちゃんが、良ければ」
はっきりと要求を口にするわりには、変に殊勝なことを付け足すから邪険に出来ないんだ。本当に意図的にやっているんだろうか。
とりあえず、嫌なわけじゃないという気持ちを示すために、前髪を掻き分け少し汗ばんだ額にキスをする。すると環がくすぐったそうに笑った。
つんと澄ましていれば大人っぽくて問答無用でかっこいいだろうに、こういうところが変に子供っぽくてギャップにくらくらする。思えば最初からこのふり幅にしっかりやられていたのかもしれない。
「いいけど、すぐにってのは……」
「じゃあコレ、今すぐ元気にしたらヤってくれる?」
さすがにそこまで元気じゃないぞと渋る俺に、環は輝く笑顔でそんな提案をしてくる。コレと指されたのは言わずもがなのソレ。大事な我が息子。
やる気満々のその笑顔は、非常に断り辛い魅力に満ちている。しかも断ったら絶対落ち込むに決まってるんだ。捨てられた子犬みたいな目をして俺を見るんだろうという、その細かな表情まで想像出来てしまう。
意図的にそれを切り替えられるずるさを本当に持ち合わせているのならもう少し駆け引きをしてもいいかもしれない。だけど環が自分で言うほど器用じゃないというのはもう十分思い知っている。
だからノーの選択肢は最初から俺にない。
「……好きにしろ」
「よし、俺に任せて!」
イエスにしか取れない答えを聞いて、環は張り切ったように拳を握って見せ、すぐにその手を解いて一仕事終えた後の俺自身に絡めた。
……好きにしろ、なんて言ったところで、一応のオッケーを出した時点で俺が負けたのはわかってる。だってこれに関しての環のテクニックは、最初に出会った時に思い知らされていたんだから。
そういうわけで二回目をするのは必然的になってしまい、まあなんというか、流れでもう一回、二回としてしまったのは、我ながら流され過ぎというか、我を失い過ぎというか。
ともかく。
週末に環を呼んで良かったと心底思った次の日の昼。
知らぬ間に高く上っていたお天道様に呆然としながら目覚めた俺は、軽い頭痛に眉をしかめながら隣を見る。
そこには満足げに眠る若い恋人がいて、そのあまりにも幸せそうな寝顔に盛大なため息洩れた。
一線を越えるって、色んな意味で恐い。
「……そうだ」
どうせだからもうひと眠りしようかと目を閉じかけて、ギリギリ引っかかった事柄で再び目を開ける。
昨日は帰ってきてすぐベッドに直行したようなものだから、渡す機会がなかったそれ。忘れるところだったとベッドを下り、昨日脱いだパンツのポケットを漁って見つけ出したのは作ったばかりの合鍵。
次いでバッグから小さな紙袋を掴みだすと、一度ベッドの方を窺って環の様子を見る。よっぽど疲れたのか起きる気配はない。
それを確認してから紙袋からキーホルダーを出すと、輪っかの部分を鍵に取り付けた。
「……ダサい、か?」
鍵をつまんでぶら下げたその絵面がなかなか微妙で思わず苦笑い。
昨日遊園地でこっそり買ったキーホルダーは、鍵につけるととても子供っぽくて、まるで「小学生が持たされた家の鍵」のような見た目になってしまった。プレゼントという心躍る響きとは少し違う気がする。
でも、まあわかりやすくていいか。
これは俺からの目標達成のご褒美だ。
環が出会った時に言った、俺を落とすという目標。それは見事達成され、こうして気だるい朝を迎えてしまった。
そしてこうなった今だからこそ、改めて鍵が必要なんだ。
できあがった合鍵を手にベッドに舞い戻ると、起こさないように隣に入り込む。
「これが俺の鍵だから間違えんなよ」
前髪を掻き上げ、昨日のように覗いた額に軽く唇で触れると、小さく応えるように吐息が洩れた。
だから無防備に寝ている環の手に鍵を握らせ、その上から覆うようにして自分の手を握らせて横に寝転んだ。そしてすやすや気持ちよさそうに眠る寝息を耳に、俺ももう一度瞼を閉じる。
環が男だからって、それはやっぱり環だけが特別で、今だって男は無理だって思っているし、この手も女の子みたいに華奢じゃなく、しっかり骨ばった男のものだってのに。
好きだから握る手は、ほら、こんなにも愛おしい。
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