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【オトメゴコロ】

趣味は何か、と聞かれれば僕は迷いなくカメラだと答える。 「カメラは置いていって」 給料の使いどころといえば諭吉が何人…何十人と飛んでいくレンズだと言っても過言ではない。 そんなカメラバカに放つ言葉としてはいささか不向きな台詞を吐いて、彼は目的の地へと歩き出す。 振り向きもしない彼に黙って持っていくことだってできたのに、バカはバカらしく車のドアを閉めた。 「この日の為にレンズを新調した」 「そんな気がした。昨日嬉しそうに磨いていたから」 「腕も磨きたいんだ」 「もう充分だよ。充分すぎて君の写真に頼り切ってた」 「意味がわからない」 小言を言いながら見上げた先の彼は、まるで一枚の絵画の中に居るようだった。 油画というよりは水彩画だろうか。彼の背後では、優しげな薄桃色が雲一つない青空に広がっている。柔らかな風が華奢な枝を揺らし、花びらは可憐に降り注ぐ。 残したい。この一瞬を。 切り取ってしまいたい。 「カメラ取ってくる」 「駄目だよ」 「どうして」 「それで満足してしまうから。君の撮る写真はいつも完璧で見返せば満足する」 「ならいいじゃないか。後で一緒に見返すのだって楽しい」 「もちろん。だけど君の記憶には刻まれない」 「そんなことはない」 「じゃあ1年後、今日のことを思い出そうと思ったとき君はまず何を見る?」 「写真に決まってるじゃないか」 ほらみろ。 そう言いたげな表情で彼は口を閉じた。

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