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写真はいい。
あのとき彼がどんな表情をしていたのか。なにを見て笑って、その笑顔はどうだったのか。
思い出せないときは本棚に増えていくアルバムを見返せば簡単に――
あ。
「後で見返せないと思えば、もっと真剣に記憶に刻もうと思うでしょう?」
彼は僕の顔を見て満足げな笑みを作る。
呆れた。そんな理由か。
冷静に考えてみてほしい。
万が一僕らの命が終わったとしても、写真であればデータとして残せるのだから記憶なんかより遥かに優秀だ。共有だってできる。
それにいくら記憶に刻み込んだところで忘れるときは忘れてしまうだろう。忘れるくらいなら残しておいたほうが…と、まあ言い返したい事は山ほどあるのだが、ひとまずここは唇を尖らせておく。
「自慢じゃないが記憶力には自信がない。万が一忘れてしまいそうになったときには、またここに来てくれるのか?」
「勿論。四季は毎年巡りくるからね。来年も来よう」
彼が笑う。柔らかな風に手を取られ、楽しそうに花びらが舞い踊る。まるで彼と一緒になって笑っているようだ、と乙女がちな錯覚を起こす。
こんなにも素晴らしい光景、例え来年訪れたとして同じような瞬間には出会えないかも知れない。
忘れたくない。
何年も、何十年先までだって覚えていたい。
「…目が赤いようだけど、やっぱり少しだけならカメラもかまわないよ」
「いい。そのかわり帰りに薬局に寄ってくれるか」
きょとんとした彼が、この後どんな顔をするのか。
しかと記憶に刻んでやるとしよう。
end.
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