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かくれんぼ⑩
「...何してたわけ?」
「はい!エロい事ですっ!!」
花木くんの問いに、後藤君が挙手して答える。
「かくれんぼ」
怠そうに松田君は何事も無かったように答える。僕は俯いてみんなの輪から少し離れて教室向かって歩き出す。
「...大丈夫かよ?」
関谷が小さく声をかけてきた。本来の僕の人見知りぶりを知ってるから心配気な声だ。
「……うん。」
僕も小さく頷く。
とてもじゃないが、ロッカー内の事を言えるわけがない。
「……あれ?」
急に関谷が立ち止まり、僕の顔を覗き込む。と言うか、目線は僕の耳元で。
「紡、ここ、赤くなってる。虫刺され?」
「え?」
首元...赤い…虫刺され...?
そんな覚え無くって首をかしげてると、関谷の手が伸びてきた。そして、伸ばされた手の位置でハッとした。そこは、さっきの『印』の場所だ。
「あ、わ、……え?」
関谷の手は僕の耳元に触れなかった。
寸での所で松田君に止められたのだ。
「ダメ。これ、俺のだから」
にっこり笑って、僕の肩を抱いて自分の方へ引き寄せる。
目をこぼれ落ちそうなほど見開いてる関谷。
「ぎゃあ!!ほれ、やっぱりエロいことしてらっしゃる!」
それを見ていた後藤君がまた わーわー騒ぎ出した。
「あれ?俺 また折り紙でネックレス作んねーとだ?まだあったかなぁ、折り紙」
「まじかぁ。松田、むっつりそうだと思ってたんだ」
「なんだ?そういう事?めでてーな。」
皆がやんや言い出して、僕の肩に回された松田君の腕が熱くて、僕は黙って顔を赤くしていた。まだ、驚いた表情のままの関谷には苦笑いで応えておく。説明するには、まだ僕自身気持ちの整理がついていない。
和やかに教室に戻る途中。
「…あ、忘れ物した」
歩こうとする僕の肩を掴んで動きを止めた松田君は今来た道を引き返す。
「え?あ、え?」
みんなに背を向けると、声が聞こえる。
「先に行ってるぞー」
「ぜってー、エロいことする!」
「後藤、しつこい」
「小沢、俺達もー...」
「行かない!!」
賑やかな声はどんどん小さくなっていく。
「...何を忘れたの?」
「んー?」
キョロキョロ辺りを見渡して松田君が入ったのは空き教室。予鈴が聞こえた。
「...大野」
「ん?……んっ」
ペロリと唇を舐められた。
思わず唇を手で押さえる僕を見下ろして、松田君はいたずらっ子のような笑みを浮かべていた。
「大野に、返事もらうの忘れてた」
「えっ?」
「なんなら、もぅ1回隠れてみる?」
いたずらっ子の笑みから、蕩けるような笑みを浮かべる松田君。
ずきゅーん。腰抜けそう。
そして僕は、首がとれるんじゃないかってくらいに、縦に振って返事をした。
終わり。
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