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第5話
幼い王と、三人の姉姫を連れた旅団の出立は壮大なものだった。
城、街を抜け、広野に出たころ、耳をトントンと叩きレイレスはぼやいた。
「あのラッパ、なんとかならないのか…」
先頭の馬に就いたレイレスの背後で、青年が笑う。
「本当なら、楽団ごと旅に出るものですよ」
本当か、とレイレスが振り返ると、笑った青年はそのまま頷く。
青年の名はシューフ。王国に数ある中でも一番若い騎士団の長である。年は、レイレスとほぼ同じ様に見える。実際は、レイレスが年上なのだが。
「それより、よいのですか?」
シューフがふと真顔になった。
「何がだ?」
「姉姫様ですよ。先ほどからレイレス様をお呼びになられているようですが…」
姉姫、と聞いて、レイレスはグッ、と息を止めた。
「いや…姉上は」
「どうなさいました?」
「お前、私が姫の様な形をしていたら…どうする」
「姫…ですか?レイズクライムレス様ほどなら、それは姫であろうと美しいと思いますが」
真面目に答えるその顔を見て、暫しレイレスは沈黙し、首を振った。
「ならぬ!断じてならぬぞ、シューフ!」
「はっ、…は?」
「私が姫で良いと、お前は言うのか?男の私に、一国の主である、この私が!」
早口に、一気に声を上げたレイレスを前に、何の事かを悟ったのか、シューフは首が零れ落ちそうなほど振る。
「いえ!そのようなこと、私は考えたこともありませんでした!」
「まあ、元はといえば俺が言ったことだからな…」
頭を項垂れるレイレスを横目に見、シューフは辺りを見回した。
広野には、道が一本どこまでも続き、そして、鬱蒼とした森の中に続いていた。
乾燥した地には、蹄の心地よい音が響く。
一呼吸おいたシューフは、レイレスに向き直り、声を上げた。
「ご覧ください、陛下。もうじき『神の裁き』と呼ばれる絶景が現れますよ」
指差した方角には、何も無かった。
森の先、小高い丘。
その先が、「本当に何も無かった」。
「『神の裁き』?本当にあったのか?」
その名は、ファーロに教えられていた。だが、実際に目の当たりにするのは初めてである。
大陸を分断こそしないが、底を見ることが不可能と言われている、広大な谷である。
「はい。隣国のサルバースへはここを通るより、他の道はありません。しかし、目前の森を迂回する順路も考えてあります。ご安心を」
「姉上達に知らせてくる。…しばらく戻らないかもしれないが、後は頼む」
「はい」
シューフは頷き、先方を見た。
レイレスは深い溜息をつき、くるりと馬の向きを変え、姉姫達が乗る馬車へと馬を進めた。
一団の最後尾を進む姉姫の馬車は、ゆっくりとした速度で進み、レイレスが馬を近づけるほどに竪琴の音が幌の中から零れてきた。
レイレスは流れ聞こえる音楽に、自分の身に起こるであろう事を想像しながら、馬を早足にさせた。
ふと、レイレスは太陽を見た。
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