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第7話
惨状が広がっていた。
馬と共に首のない屍が列を成している。
己の目指す馬車が、遠く見えた。普段ならばすぐに追いつくはずが、できない。
レイレスは指笛を鳴らし、空へ手を伸ばす。エニーロがどこかで見ているはずだった。
報せなければならない。
今は城を守る、ファーロに。
上空で鴉の声が響いた。
「エニーロ!」
だが、すぐに舞い降りるはずのその紅い鴉は、周りを黒い影に囲まれていた。鷲のような、広げた翼が人の大きさほどもあるだろうか。
「レイレス…!」
蚊の鳴くような声が耳をかすめた。
「姉上!!」
馬車を見れば、傾きながら一番上の姉姫マイルレンスが、顔を出していた。
「レイレス!早くこちらへ…!」
何度も身を崩しそうになりながら、こちらへ手を伸ばしている。
「姉上!駄目です!戻って…!」
はっと、マイルレンスが口元を押さえた。
瞬間、何かが耳元を掠めた。
レイレスは、振り向くまでもなくそれが矢であった事を知った。
マイルレンスが左目を押さえ、馬車の中に崩れる。
「あ…姉上ぇえええええええ!!」
絶叫が届いたか否か、それはレイレスにも迫っていた。
弓を引いたものを見定めるためにレイレスは振り返った。
が、それは叶わなかった。
「!?」
突如、首を何者かに掴まれたのをレイレスは感じた。
気づけば、落馬し、地に伏せっていた。
「…っつ…」
衝撃に身体が痙攣した。
指にさえ力が入らない。
目前には、黒い何かが、ゆらりと立っていた。
その黒い得体の知れぬものから伸びる一本の影。それが、己の首を掴んでいる手と腕であるのだとレイレスは気づいた。
気づいたが、何もできないことには変わりなかった。
砂利を踏む、靴音が耳元で鳴った。
「ベリル、そいつは人間か」
男の声が響いた。
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