8 / 61

第7話

 惨状が広がっていた。  馬と共に首のない屍が列を成している。  己の目指す馬車が、遠く見えた。普段ならばすぐに追いつくはずが、できない。  レイレスは指笛を鳴らし、空へ手を伸ばす。エニーロがどこかで見ているはずだった。  報せなければならない。  今は城を守る、ファーロに。  上空で鴉の声が響いた。 「エニーロ!」  だが、すぐに舞い降りるはずのその紅い鴉は、周りを黒い影に囲まれていた。鷲のような、広げた翼が人の大きさほどもあるだろうか。 「レイレス…!」  蚊の鳴くような声が耳をかすめた。 「姉上!!」  馬車を見れば、傾きながら一番上の姉姫マイルレンスが、顔を出していた。 「レイレス!早くこちらへ…!」  何度も身を崩しそうになりながら、こちらへ手を伸ばしている。 「姉上!駄目です!戻って…!」  はっと、マイルレンスが口元を押さえた。  瞬間、何かが耳元を掠めた。  レイレスは、振り向くまでもなくそれが矢であった事を知った。  マイルレンスが左目を押さえ、馬車の中に崩れる。 「あ…姉上ぇえええええええ!!」  絶叫が届いたか否か、それはレイレスにも迫っていた。  弓を引いたものを見定めるためにレイレスは振り返った。  が、それは叶わなかった。 「!?」  突如、首を何者かに掴まれたのをレイレスは感じた。  気づけば、落馬し、地に伏せっていた。 「…っつ…」  衝撃に身体が痙攣した。  指にさえ力が入らない。  目前には、黒い何かが、ゆらりと立っていた。  その黒い得体の知れぬものから伸びる一本の影。それが、己の首を掴んでいる手と腕であるのだとレイレスは気づいた。  気づいたが、何もできないことには変わりなかった。  砂利を踏む、靴音が耳元で鳴った。 「ベリル、そいつは人間か」  男の声が響いた。

ともだちにシェアしよう!